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: 貨幣の不足について : 商品貨幣説と貨幣数量説 1 : 商品貨幣について

貨幣価値の安定性について

商品貨幣の限界として、その価値の不安定性が繰り返し指摘されているが、この点は理論的に考えるというどうなるのであろうか。

商品の引き渡しと貨幣の支払いが時間的にズレるから、支払手段という観点からみて、価値の大きさが安定的な商品が契約の単位として選好されるというのは、古くからある考え方であり、マルクスはN.W. シーニアの同じ論述を引きながら、この考え方を繰り返し否定している(Marx[1857] S.159, Marx[1858] S.206)。この考え方は一見もっともにきこえるが、そこには価値の安定性が、貨幣たることに先行する、独立の原因といえるかという問題に対するマルクスの洞察が潜む。逆に価値の安定性は貨幣となることでもたらされる可能性もある。少なくともマルクスが、商品流通に先行するかたちで、まず価値の安定性が規定できるとしなかった点は考慮に値する。時間の流れのなかで、交換力としての価値の大きさを客観的に比較することには、論理的な困難がともなう。重量のように客観的な属性として価値の安定性があり、それが根拠となって契約の単位となるという説明にマルクスが慎重だった理由はこのあたりの混同を畏れてのことかもしれない。



obata 平成18年10月18日