『資本論』第二巻を読む:第8回

  • 日 時:2019年 12月18日(第3水曜日)19時-21時
  • 場 所:駒澤大学 3-802(三号館の奥のエレベータで8階に)
  • テーマ:『資本論』第2巻 第2篇第7章
第7章「回転時間と回転数」
第2篇「資本の回転」にはいります。第7章「回転時間と回転数」は短い章ですが、「回転」という概念の基本を捉えかえしてみたいと思います。

基本規定

総流通時間の定義からはじまります。

ある与えられた資本の総流通時間は、その資本の①通流時間と生産時間との合計に等しい。それは、一定の形態での資本価値の②前貸しの瞬間から、過程進行中の資本価値の同じ形態での復帰までの期間、である。S.154

資本の運動は、さまざまな時点でさまざまな貨幣の支出と回収、原材料の消費と補充がともなう複雑な合成体です。G — W … P … W’– G’・G — W … のような図式を当てはめることには無理があります。 ①は、この図式が念頭にあって、(W’– G’・G — W) の期間 + (… P …) の期間と考えられたのだと思います。しかし、資本の運動は、ある生産物をとってみても、生産のいろいろな時点でさまざまな原材料が消費されるわけです。一台の自動車を生産する…. P …生産期間というはいつはじまるのか、シャーシをラインにすえたときか、タイヤをつけたときか、モノレベルでいうとそう簡単ではありません。もちろん、生産をはじめるとき、原材料が1台分全部そろっている、と考えれば、どこでいつ使われようと関係ないでしょう。しかし、連続的生産が同時並行的に進む工場型の生産システムでは生産期間を客観的に一義的に計測するのは容易ではありません。

②についても、厄介な問題があります。まず第一に、前貸し=資本の投下ですから、運動している資本のなかで、前貸し=投下が繰り返しおこなわれるわけではありません。投下され運動を介した資本に関してなら、貨幣の支出 G・回収 G’、あるいは原材料の消耗 Pと補充 P 、完成品W’が売れて、ふたたび完成品W’になるまで、といった循環を考えることはできます。しかし、生産期間はともかく、流通期間を考えると、G … G’, W … W, W’—W’ …. が等しくなる必然性はありません。このように考えてみると、資本の循環図式をイメージして、①や②のようなかたちで、「総流通期間」というタームを簡単にうけることはでききません。資本の運動が「期間」を要するものだという『資本論』の認識はきわめて重要ですが、それと、その規定内容が妥当であるかどうかは別のはなしです。

なお、前貸し vorschießen (advance) という用語は第②パラグラフでも繰り返しできます。advance payment で「前払い」でしょう。『資本論』第三部の「利子生み資本」「それ自身に利子をもたらすものとしての資本」「利子つき資本」das zinstragende Kapital との関係で、「前貸し」の「貸し」にひっかかる人もいますが、すくなくともここでは「前払い」がよいでしょう。

資本主義的生産の規定的目的は、つねに、前貸価値の増殖であり、この価値が、その自立的形態すなわち貨幣形態で前貸しされるか、それとも、商品で前貸しされ、その結果、その価値形態が前貸しされた商品の価格のうちに観念的な自立性をもつにすぎないかどうに、かかわりはない。両方の場合とも、この資本価値は、その循環中にさまざまな実存形態を経ていく。この資本価値の自己との同一性は、資本家の帳簿で、または計算貨幣の形態で、確認される。S.154

貨幣での前貸と商品での前貸が同格に規定されている点が目を引きます。資本の運動を貨幣増加の運動としてとらえる資本概念(つまり貨幣に実現されていないかぎり、価値増殖はしていないとする資本概念)を批判する立場から結論はOKなのですが、論拠として資本家の観念をもちだすことには賛成できません。

三つの循環形式論との関係

5パラグラフほど続くのですが、結論は最後にあります。S.154

  • 形態III は、資本の回転のためには利用できない。
  • 形態 I は、剰余価値形成への回転の影響を考えるのに適している
  • 形態 II は、生産物形成への回転の影響は適している。

2 vs. 3 は引用2と齟齬しているようでもあり、「生産物形成への回転の影響」がなにを意味するかは不明です。

このあと「経済学者たち」への批判が続きます。S.P.ニューマンもTh.チャマーズも、スミスやリカードなどの古典派経済学にはほとんどみられない、会計学的な利益計算を取りあげているようです。この時代、会計学がどのような水準にあったのか、興味深いところです。

回転期間と回転数

資本の循環は、孤立した経過としてではなく周期的な過程として規定されるとき、資本の回転とよばれる。この回転の持続期間は、資本の生産時間と通流時間の合計によって与えられる。この総時間は、資本の回転時間をなす。

一部引用1と重複しますが、回転期間をまずさきに規定しています。この回転期間をu として、一定期間Uの「回転数」を U/uで与えます。
つまり、「回転期間」→「回転数」が基本です。「回転数」→「回転期間」ではありません。
この時点では、売上高 ÷ 投下資本額 で「回転数」を計算してしまう考え方をきっぱり否定しているのですが、問題はこのあと、この関係が貫徹できるかどうかです。そして、その意味ではじめのほうで述べたように、「回転期間」が独立に規定できるのかどうか、が重要になるのです。

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