『資本論』における価値形態論と交換過程論とは,商品しか存在しない状況を舞台設定としている点では共通する.
しかし,そこでの課題とその解決方法は,それぞれ異なる.
価値形態論では,商品に内在した価値をいかにして表現するかという問題が取り扱われ,それは商品の中から他のあらゆる商品の等価物に立つ貨幣商品が選び出されることによって解決されると言われる.
それに対し交換過程論では,商品交換がいかに遂行されるかという課題が与えられ,その困難は商品交換の位相からは区別された,自立した貨幣の存在によって解消されると述べられる.
価値形態論 | 交換過程論 | |
舞台設定 | 商品のみの世界 | 商品のみの世界 |
課題 | 価値表現 | 交換の遂行 |
解決 | 貨幣商品の選定 | 独立した貨幣の導入 |
ehara
価値形態論では、諸商品の価値表現の発展と、それによる貨幣形態の生成が示される。
交換過程論では、他人にとっての使用価値をもつ商品と、商品所持者を満足させる使用価値をもつ商品との交換とその困難が述べられ、これが社会的行為による一般的等価物の導出によって解決されることが示されている。
両者は、貨幣のない世界から貨幣のある世界を導出する点で共通する面をもつ。
しばさき
<筆者の観点について>
第二章に限って見ると、筆者が交換過程論と価値形態論の類似点と相違点のうち、ある一方を自分の主張として積極的に取り入れているとは読まれない。ただし、両側面が共にあることを述べた後、その次の論旨の展開で結果的に傍点が打たれる方は後者であるように見える。
筆者は、貨幣のない商品世界から貨幣のある世界への転化という両論の展開方法における類似点を示し、このような見方には「一定の根拠」があると述べている。しかしその後、類推の観点から見ると、交換過程論が価値形態論の解釈に影響を与え、その解釈からなる貨幣観及び市場像には問題があると指摘する。このことから、類似点に対する否定までとは言えないが、筆者にとって重点が置かれているのは相違点の方であることが見て取れる。
LEE