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訪問者:氏名不詳



 情報通信技術と資本主義のゆくえ 



今回のテーマ

  • 昨年最後の講義では、予定していた第13講の内容に入れませんでした。
  • 最終回ですので、第1講から第12講まで通して、なにを話してきたのか(試験対策という意味も含めつつ)簡単にふりかえり、
  • 第13講の内容を講義します。これがメインです。
  • そのあと、残った時間で、情報通信技術の発展が資本主義をどのような方向に変えようとしているのか、展望してみましょう。

資本主義の基本的なすがた

  1. 労働力の商品化:お金をだせば労働力がいくらでも買える。
  2. 資本の自由:利潤を唯一の目的とする資本が自由に活動できる。
  3. 万物の商品化:資本は、労働力をつかって、どのような欲望の対象でも商品として提供できる。

これまでの資本主義

大量生産

  • 資本主義の基本は、たださまざまな種類の商品を生産するだけではなく、
  • 同じ種類のモノを大量に生産するシステムを基本に発展してきました。
  • 大量生産を支えるために、人間の労働がどのようなかたちに変形されてきたかは、第12講の「コンピュータをつくる産業」でみてきたとおりです。
  • 19世紀イギリス型の資本主義:軽工業
    • 紡績における機械をつかった「自動化」
    • 労働の単純化:労働不要論の第一波
    • しかし川下にはアパレル産業=手工業が残存・拡大
  • 20世紀ドイツ型の資本主義:重化学工業
    • 鉄鋼業における巨大装置をつかった素材生産
    • しかし、素材加工で労働力の吸収:自動車組立産業
  • 一20世紀の労働は、組立型や操作運転型が基本
    • 労働に「熟練」は必須。一方的に「単純労働」になるわけではない。
    • しかし、その熟練はさまざまな職種として、最低水準で「足キリ」された標準労働に。
    • 「型付けられた労働」として互換性を強める。

大量消費

  • 一人ひとりの欲望は、みな微妙にズレているはず。
  • これまでの資本主義は、似たり寄ったりのモノ(同じ自動車でもいろいろあるというかたちのモノ)から、好きなモノを自由に選べる、というかたちで、欲望のズレを満たしてきた。
  • けっきょく、選ぶというかぎりでは、人間の欲望も、型にはまった(型づけられた)欲望。
  • 型にはまった労働をすることで、似たり寄ったりの商品を大量に生産し、わずかばかりの違いに個性を主張する、資本主義のカルチャーです。

これからの資本主義

  • 情報通信技術の発展は資本主義を大きく変容させる。
  • そこには二つの顔がある。

モノの生産における自動化

  • 19世紀型でも20世紀型でも、川上における大量生産は、川下における労働の拡大を生んできた。
  • 資本主義の発展のなかで、労働不要論は繰り返されてきたが、それは川下における新たな労働の必要に目を向けなかったため。
  • 大量生産のなかで必要とされてきた労働が、センサとアクチュエーターの発達、インターネットで共有されるビッグデータの登場、コンピューターサイエンスの発展で、なくってゆく可能性はある。

コンピュータに「させる」労働

  • しかし、すべての労働が消えてなくなるわけではない。
  • かたちが変わる。
  • コンピュータは、自ら欲求をもち、自ら動く装置ではない。
  • 広い意味で、コンピュータになにかを「させる」make 必要がある。
  • 「させる」ための人間の労働が必要になる。

欲求にかたちをつける労働

  • 情報通信技術の「通信」はコミュニケーション。
  • 相手の「欲求」を実現可能なハッキリした「目的」にかたちづける労働。
  • コンピュータに可能な「通信」と、不可能な対話「コミュニケーション」の違い。
  • 「コミュニケーション」という労働が情報通信技術の発達のなかで必須となる。

資本主義でやってゆけるのか?

  • 人間の労働の中心が、「知識」や「コミュニケーション」に移ってゆくとき、
  • 私企業の利潤追求原理が、それらを組織編成する方法として適切かどうか、が問われる。
  • 「知識」は、生産し消費するものではない。
  • 利用しても減ってなくなるようなものではない。
  • 本来、共有可能な対象を、どこまで商品として売買の対象とすべきか、が問題となる。
  • 「コミュニケーション」は本来、相手を理解すると同時に、自分を理解してもらう対等な関係。
  • 利潤追求型の資本のもとでおこなわれる「コミュニケーション」型労働は、相手の欲求に立ち入り、特定の目的にかたちづくる一方向性を強いられる。
  • とはいえ、資本主義に適合した「マスコミ型」コミュニケーションに対して、多元的で双方向性をつむインターネットは、資本主義をこえる社会関係を生みだす潜在力をもっている。

Last-modified: 2021-02-20 (土) 19:13:40