前回<<第6講>>次回

前回は、「商品価値を表現する」という基本スペックを実装する方式の一つとして、金貨幣(物品貨幣を代表する)の話をしたところで終わりました。

今回はもう一つの実装方式である「信用貨幣」について話します。

概要

前回説明した、金貨本位制度のもとでも、本位貨幣と交換(本位貨幣[正貨]との交換をとくに兌換 convertible という)できる銀行券(兌換銀行券)が発行されていました。この兌換銀行券について、補足的説明をします。

兌換であれ不換であれ、銀行券はすべて非物品貨幣、すなわち「信用貨幣」です。ただ、兌換というかたちで金貨に依存している兌換銀行券は、不換銀行券に比べて信用貨幣としてまだ自立性が弱いということができます。その意味で、物品貨幣の典型である金貨幣の対極に位置するのは、信用貨幣の典型としての不換銀行券です。

ただし、一般にいわれてきたのは逆です。「理論的に説明できるのは、兌換銀行券までだ」と考えて、不換銀行券を国家紙幣と同じカテゴリーに属するものとしてしまう立場が支配的でした。そしていまでも、そうです。とくに、日本銀行が大量の 国債 を保有するようにかわった現在では、これを根拠に、日本銀行券の実質的な「国家紙幣化」を主張する立場が強まっています。この「国家紙幣化」については、「仮想通貨」の登場と併せて、次回に話をします。今回は、その前提として、不換銀行券の「商品貨幣」としての基本的特性について、考えてみます。

態 様実装方式この講義の立場通 説
物品貨幣金幣・銀幣 etc商品貨幣 =商品から
演繹的に導出できる
本来の貨幣=
金貨本位制
信用貨幣兌換銀行券
不換銀行券非本来的な貨幣=
管理通貨制
フィアット・マネー国家紙幣原理的には不可能な貨幣
  1. 講義の前半では、今日の日本銀行券を例に、不換銀行券の実際のすがたについてみてゆきます。それがどのようにして発行されているのか、日本銀行の貸借対照表に即して説明します。前回説明した金本位制のもとでの金貨と比べてみてください。
  2. 後半では、原理的な説明に立ちかえり、物品貨幣も信用貨幣も、ともに、商品価値をベースにして、貨幣の価値の大きさを維持している「商品貨幣」の一種であることを説明します。後半は抽象的でちょっと難しい話になりますが、できるだけわかりやすく解説します。

信用貨幣

信用貨幣のすがた

  • 原理的に説明できる「信用貨幣」は抽象的なものです。いまの日本銀行券は実装方式として特異なズレをもっています。
  • 日本銀行券を例にして、それがどのように発行されているのか、解説します。
  • 「預金通貨」についても、時間があればふれてみます。

信用貨幣は商品貨幣か

  • 信用貨幣について、原理的な再検討を試みます。
  • 価値表現に必須なのは、
    +  ...
    +  ...
    とです。
  • したがって、この要件を満たす
    +  ...
    でも価値表現は可能です。今日の銀行券は、このタイプの貨幣です。
  • ただし、銀行券が表しているのは、メディアとしての紙幣(印刷された紙)の「価値」ではありません。
  • 銀行券は銀行の
    +  ...
    です。銀行は、この負債に対応する債権資産 Bとして保有しています。
  • この債権の背後には、それを支払うための資産 X(たとえばこれから売られる商品在庫 W など)が存在しています。
  • つまり、銀行は、返済の確度が高い優等な多数の債権を保有しています。その背後には多種多様な商品が存在しています。
  • したがって、一万円札の価値は、さまざまな種類の商品一万円の価値を代表しているのです。
  • 銀行をハブにして、さまざまな商品の価値がミックスされた債権が銀行券です。
  • このように迂回したかたちで、銀行券は、ある商品に内在している価値を、さまざまな商品の合成された価値で表示していることになります。
  • 金貨幣が、そのストック量の大きさによって、価値の安定性を確保していたのに対して、銀行券は債権・債務の迂回路を通じて、多種多様な商品価値の合成を通じて、別の方式で同じ効果を生みだしているのです。
  • この意味で、銀行券も、商品の価値をベースにした貨幣、価値にリンクした貨幣、すなわち「商品貨幣」であるということができます。

配布物

参考



Last-modified: 2021-02-09 (火) 09:52:26