#author("2021-12-05T15:01:20+09:00","default:obata","obata") CENTER:[[前回 ◁ >2021年度/冬学期/第3講]]&color(#447CFF){第 &size(32){4}; 講}; [[▷ 次回>2021年度/冬学期/第5講]] #qanda_mathjax #qanda_setstid(2021-11-11 16:10:00, 90) #qanda_who ------- ✔ RECONチェック&br; ✅ 接続チェック #qanda_set_qst(4,20,0){{ <p>✔接続状態をおしえてください。</p> <p>✔ なお、前回学生証番号を登録した人で、今回「氏名不詳」になってしまった人は「再登録」と書いてください。</p> }} #qanda(4,20) ----- CENTER:&size(25){&color(yellow,navy){ 社会的再生産 };}; ----- **今回のネライ [#w9f16f16] -無数の生産過程で構成されている社会的再生産を、二つの生産過程の組合せに抽象化する方法を考案する。 -一種類の純生産物だけを生産するかたちに社会的再生産を拡張収縮する方法を知り、その経済学的意味を理解する。 -複数の生産物の物量セットを、価格によって集計する手法を知り、その意味を理解する。 -価格によって集計された投入額と産出額の比で、それぞれの生産過程の増え具合が比較可能になることを理解する(いちばんプリミティブな増殖率の概念)。 -すべての生産過程で増殖率が等しくなるような価格比と、このときの均等な増殖率を計算する手法を知り、その経済学的意味を理解する。 ***生産過程の組合せ [#l557b621] -生産過程は生産物と粗生産物を表す二つのベクトルの関係で示すことができる。 \[(a_1,a_2,\cdots,a_n) \to (0,\cdots,1,\cdots,0)\] -粗生産物は一種類であると仮定する。 > +生産手段は複数でも、目的の生産物は一つであるのがふつう(正則)だから。 +変則として、副生産物がでてくる場合があり、「結合生産」とよばれる。 < #qanda_set_qst(4,1,0){{ <p>「生産手段は複数でも、目的の生産物は一つであるのがふつう」にみえるのは、実はある操作がなされているからである。</p> <p></p> }} #qanda(4,1) #qanda_solution(4,1){{ <h4>解答</h4> <p>物理化学的な自然現象全体から、その一部を人間が目的に応じて切り取ったものが生産過程であるから。</p> <h4>解説</h4> <ul> <li>この講義では教科書にでてくる「トリミング」という用語で説明しました。</li> <li>トリミングはなかなか意識に登らないことに注意しよう。</li> <li>生産過程はほんの一部を切り取ってその内部を合理的に編成しているだけ!内部はウルトラ合理だが、外部への影響はすっかり忘れ、「自然に」に処理される、と思っているだけ。</li> <li>自然現象全体はずっと複雑で、人間の知的能力ではそのすべてを知ることはできません。</li> <li>たまたま、自然環境にダメージが大きいと、無視していたアウトプットが「副産物」だと認識されることがあります。「結合生産」のアイデアは、環境問題に適用できると。</li> <li>工業生産物、たとえば鉄は、同時に二酸化炭素を副生産物として生産している、というように。 \[ 石炭 + 鉄鉱石 \to 鉄 + CO_2 \] <li>そして、農業生産物たとえば木材は逆だ、というように。 \[ CO_2 \to 木材 + O_2 \]</li> <li>しかし、これですべてと考えるなら、それは人間の知性の限界を物語るだけ。knowing unknown 的な真の知性にたどりつくのは容易ではありません。</li> </ul> }} &br; -ここでも、nを2に抽象化して考える。データを入れて検証するのであれば、生産過程の数を増やす必要がある。しかし、それをしないのにnに一般化しても、それで得られる知見に違いはない。ただ煩瑣になるだけ。かつて流行った数理経済学はムダな努力だったかも。 -二種類の生産物からなるベクトル(小麦,鉄)を考える。単位はkgとする。次のような小麦、鉄の生産過程を想定する。 \begin{cases} 小麦9 kg &+& 鉄14 kg &\to& 小麦36 kg\\ 小麦18kg &+& 鉄8kg &\to& 鉄24 kg \end{cases} -これはベクトルをつかって次のように書くことできる。 \begin{cases} 小麦生産 P :& (9,14) &\to& (36,0)\\ 鉄生産 Q :& (18,8) &\to& (0,24) \end{cases} -二つの生産過程には固有の「技術」がある。したがって投入をk倍すれば産出もk倍になると想定する。 #qanda_set_qst(4,2,0){{ \[ P : (9,14)\to (36,0)\] \[ Q : (18,8) \to (0,24)\] <p>生産過程 PとQで構成される社会的再生産全体を考える。この全体が生みだす純生産物のベクトルを求めよ。</p> }} #qanda(4,2) #qanda_solution(4,2){{ <h4>解答</h4> <p>\[(36,0)+(0,24) - (9,14) - (18,8) = (9,2)\]</p> <h4>解説</h4> <p>はじめの2項が粗生産物、後の2項が生産手段。</p> <p>純生産物=粗生産物 - 生産手段</p> }} #qanda_set_qst(4,3,0){{ \[ P : (9,14)\to (36,0)\] \[ Q : (18,8) \to (0,24)\] <p>生産過程 PとQ を組み換えて。<strong>小麦9kg</strong>だけを純生産物として生産するための生産手段のベクトルを求めよ。式も書くこと。</p> }} #qanda(4,3) #qanda_solution(4,3){{ <h4>解答</h4> <p>P,Q の生産過程を \(s_1,s_2\)倍に変更すると</p> \[s_1(36,0)+s_2(0,24) - s_1 (9,14) - s_2(18,8) = (9,0)\] <p>となる。これより</p> \begin{cases} 36s_1 - 9s_1 - 18s_2 &=& 9\\ 24s_2 - 14s_1 - 8s_2 &=& 0 \end{cases} <p>整理すると</p> \begin{cases} 27s_1 - 9s_1 &=& 9\\ -14s_1 + 16s_2 &=& 0 \end{cases} <p>ゆえに\[s_1=4/5,s_2=7/10\]</p> <h4>解説</h4> <p>「<strong>小麦9kg</strong>だけを純生産物として」の意味がわかるかどうか、がポイント。</p> <p>第一のポイントは、「粗生産物-生産手段=純生産物」という基本定義。</p> <p>第二のポイントは、「社会的再生産」の考え方。二つの生産過程が結合されているので、生産手段については、縦方向に集計してやる必要がある。</p> <p>以上、二つのポイントがクリアできていれば、「Pの純生産物が9, Qの純生産物が0であればよい」ことがわかる。</p> }} #qanda_set_qst(4,4,0){{ \[ P : (9,14)\to (36,0)\] \[ Q : (18,8) \to (0,24)\] <p>同じ技術のもとで、投入をs倍すれば産出もs倍になる。</p> <p>生産過程 PとQ を \(s_1,s_2\)倍して、<strong>鉄9kg</strong>だけを純生産物として生産するようにしたい。</p> <p>\(s_1,s_2\)を求めよ。式も書くこと。</p> }} #qanda(4,4) #qanda_solution(4,4){{ <h4>解答</h4> <p>P,Q の生産過程を \(s_1,s_2\)倍に変更すると</p> \[s_1(36,0)+s_2(0,24) - s_1 (9,14) - s_2(18,8) = (0,9)\] <p>となる。これより</p> \begin{cases} 36s_1 - 9s_1 - 18s_2 &= 0 \\ 24s_2 - 14s_1 - 8s_2 &= 9 \end{cases} <p>整理すると</p> \begin{cases} 27s_1 &-& 18s_2 &= 0 \\ -14s_1 &+& 16s_2 &= 9 \end{cases} <p>ゆえに</p> \[s_1=9/10,s_2=27/20\] }} #divregion(図解,admin,lec=4,qnum=4) #qanda_raw{{ <script src="https://cdn.geogebra.org/apps/deployggb.js"></script> }} #qanda_raw{{ <div id="subsystem"></div> <script src="./js/geogebra/2021/subsystem.js"></script> <!-- <script src="./js/geogebra/2021/reproduction.js"></script> --> }} [[一種類の純生産物をもつ体系>https://www.geogebra.org/classic/tcugnqcb]] #enddivregion ----- -&color(red){2021-11-11 (木)の講義はここから}; &aname(lec7starthere); ----- #qanda_set_qst(4,5,0){{ \[ P : (9,14)\to (36,0)\] <p>小麦の生産過程 P に対して、純生産物のベクトルが(0,0)となり、粗生産物が(0,24)である 鉄の生産過程 Q' </p> \[ Q' : (q_1,q_2) \to (0,24)\] <p>が存在する。\(q_1,q_2\)の値を求めよ。式も書くこと。</p> }} #qanda(4,5) #qanda_solution(4,5){{ <h4>解答</h4> <p>純生産物をもたらさないベクトルは</p> \[(36,0) - (9,14) + (x,y) = (0,0)\] \[(x,y) = (-27,14)\] <p>Qと同じ粗生産物(0,24)を産出するケースを考えるなら、そのときの生産手段を表すベクトル\((q_1,q_2)\)は次のようになる。</p> \[ (-27,14) = (0,24) - (q_1,q_2)\] \[ (q_1,q_2) =(27,10)\] <p>つまり Q' に相当する生産を表すベクトルは、次のようになる。</p> \[ Q': (27,10) \to (0,24)\] <h4>別解</h4> \[ (9,14) + (q_1,q_2) = (36,0) + (0,24) \] <h4>解説</h4> <p>QとQ'を比較すると、同じ粗生産物、鉄24kg を生産するのに必要な生産手段の物量がすべて増大しているのがわかる。つまり、生産の効率が明らかに低下している。このため、\(Q\to Q'\)で、純生産物がゼロとなったのだ。</p> }} #divregion(図解,admin,lec=4,qnum=5) #qanda_raw{{ <div id="no-netProducts"></div> <!-- <script src="./js/geogebra/2021/no-netProducts.js"></script> --> }} [[純生産物がゼロのケース>https://www.geogebra.org/classic/eypmvhyw]] #enddivregion ***集計問題 [#x99c221a] -異なる生産物からなるベクトルをどう比較するか? -ここでは交換比率としての価格を導入してみる。 -前期経済学1の「価格」とは、別物ではないが、定義がズレている。 --価値を等価物の量で表現したものが「価格」だった。 --これと矛盾するわけではないが、ここでは「価値の表現」という規定は括弧に入れて、商品の交換比率という意味で価格を考える。 --この交換比率が、商品の価値の大きさによってきまること、この規制力をもつ存在が商品の価値の大きさであること、をこのあと説明してゆく。 #qanda_set_qst(4,6,0){{ \[ P : (9,14)\to (36,0)\] \[ Q : (18,8) \to (0,24)\] <p>Pの生産物 小麦の価格とQの生産物 鉄の価格を\(p_1,p_2\)とする。</p> <p>Pの生産物 小麦の生産手段の総額(価額)はいくらになるか。</p> }} #qanda(4,6) #qanda_solution(4,6){{ <h4>解答</h4> \[(p_1,p_2)(9,14) = 9p_1+14p_2\] <h4>解説</h4> <p>小麦の「原価」に該当します。「原価」というのは費用総額です。</p> <p>いまは原材料だけを考えていますが、原価には賃金も加わります。労働と賃金は、この後説明してゆきます。</p> <p>原価 = \(\bf{px}\) で、ベクトルの内積になります。</p> }} #qanda_set_qst(4,7,0){{ \[ P : (9,14)\to (36,0)\] \[ Q : (18,8) \to (0,24)\] <p>Pの生産物 小麦の価格とQの生産物 鉄の価格を\(p_1,p_2\)とする。</p> <p>Pの生産物 小麦の「もうけ」を示せ。</p> }} #qanda(4,7) #qanda_solution(4,7){{ <h4>解答</h4> \[(p_1,p_2)(36,0)-(p_1,p_2)(9,14) = 27p_1-14p_2\] <h4>解説</h4> <p>「もうけ」は売値から原価を引いた売買差額です。「マージン」ともいいます。</p> }} #qanda_set_qst(4,8,0){{ \[ P : (9,14)\to (36,0)\] \[ Q : (18,8) \to (0,24)\] <p>小麦と鉄の価格を\(p_1,p_2\)とする。</p> <p>PでもQ でも、「<strike>原価</strike> 売上高に対するマージンの比率」が等しくなるような価格比\(p_1/p_2\)を求めよ。式も書くこと。</p> }} #qanda(4,8) #qanda_solution(4,8){{ <h4>解答</h4> <p>\(2/3\)</p> <h4>解説</h4> \[ \frac{マージン}{売上高}=\frac{売上高 -原価}{売上高}=1-\frac{原価}{売上高} \] <p>だから「売上高に対するマージンの比率」が等しければ「原価に対する売上高の比率」も等しくなる。「原価に対する売上高の比率」で計算すれば次のようになる。</p> \[ \frac{(p_1,p_2)(36,0)}{(p_1,p_2)(9,14)} = \frac{(p_1,p_2)(0,24)}{(p_1,p_2)(18,8)} \] <p>\(p=p_1/p_2\) とおいて整理すると</p> \begin{align} 27p^2+3p-14 &= 0\\ (3p-2)(9p+7) &= 0 \end{align} \[\therefore\, p_1/p_2=2/3\,\,(\because p>0)\] <h4>After</h4> <p>問題文に誤りがありました。採点外とします。</p> }} #qanda_set_qst(4,9,0){{ <p>Pが10パーセント拡大し、Qが10パーセント縮小して、次のようになった。</p> \[ \begin{gather} P : (9.9,15.4)\to (39.6,0)\\ Q : (17.2,7.2) \to (0,22.6) \end{gather} \] <p>このとき「生産手段の総額と粗生産物の総額の比率」が等しくなるような価格比を求めよ。</p> }} #qanda(4,9) #qanda_solution(4,9){{ <h4>解答</h4> <p>2/3</p> <h4>解説</h4> <p>連立方程式の両辺に定数をかけているだけだから自明。</p> }} #qanda_set_qst(4,10,0){{ <p>P,Qなどの生産過程を表すベクトルを拡大縮小しても変わらないものはなにか。一語で答え、その定義を書け。</p> }} #qanda(4,10) #qanda_solution(4,10){{ <h4>解答</h4> <p>技術</p> <p>投入と産出の間に、客観的な再現性のある関係がある(だれがやっても同じ結果が認められる)とき、この関係を技術とよぶ。</p> <h4>解説</h4> <p>P,Qなどは、一定の比率を保ち生産物が粗生産物に変わる関係、つまり生産技術を表している。</p> <p>「生産手段の総額と粗生産物の総額の比率」というのは、もうけの比率、マージン率。これが利潤率の基礎になる。他の要件を全部無視すれば、一個あたりの原価に対する上乗せ率が等しいということは、どっちを生産しても有利不利はない、ということだ。</p> <p>この価格は、技術だけできまる。需要に応じて生産規模は変化するだろうが、それと関係なく、技術が変わらなければ、有利不利がでない価格は一定。</p> <p>利潤率が一定になる規制力を価格は、需要供給の変化とは関係なく、生産技術によって客観的に決まるというのが、これから説明してゆく「客観価値説」のコア。ただ労働の問題をはじめ、無視した要件がまだあまりに多い。ということで今回は、あくまでコアを直観してもらえればOKです。</p> }}