#author("2021-01-05T10:09:04+09:00","default:obata","obata") #author("2021-01-05T17:29:01+09:00","default:obata","obata") CENTER:[[前回 ◁ >2020年度/冬学期/第11講]]&color(#447CFF){第 &size(32){12}; 講}; [[▷ 次回>2020年度/冬学期/第13講]] ---- #qanda_setstid(2020-12-10 16:10:00,90) #qanda_who //#qanda_points_chart //#qanda_points_hist //#qanda_mathjax #qanda_mathjax //#qanda_set_qst(12,20,0){{ //<p>✔ 接続状態をおしえてください。</p> //<p>✔ 前回学生証番号を登録した人で、今回、「氏名不詳」になっていた人は「再登録」と書いてください。</p> //<p>簡単なlatexで数式が書けるようにした(つもりな)ので、実験してみてださい。</p> //<p>$ <この間にlatex の数式>$ のようにダラーマークで囲んでください。eg $t_1+t_2$ </p> //}} //#qanda(12,20) ----- CENTER:&size(25){&color(yellow,navy){ 純生産物の分配 };}; ----- *今回のネライ [#g3ff3664] -純生産物の分配の原理を考える。 -「生産でおこなわれた労働時間」$T$と「生活物資の生産に必要な労働時間」$Bt$ のギャップの意味を知る。 *純生産物と剰余生産物 [#i664ebc9] **定義 [#p8df7d90] $$粗生産物-生産手段=純生産物$$ $$純生産物-生活物資=剰余生産物$$ #divregion(図解, lec=12 , qnum=20,admin) //#ref(net-surplus.png) #qanda_raw{{ <script src="https://unpkg.com/konva@7.0.7/konva.min.js"></script> <div id="surplus-value"></div> <script src="./js/konva/coordinate.js"></script> <script src="./js/konva/default.js"></script> <script src="./js/konva/2020/surplus-value.js"></script> }} #enddivregion RIGHT:2 mini #qanda_set_qst(12,1,0){{ $$\mathcal{P}\,:\, 小麦10kg + 労働10時間 \longrightarrow 小麦30kg$$ $$\mathcal{Q}\,:\, 小麦12kg を消費して10時間\,労働する$$ <ol> <li>小麦1kgを生産するのに必要な労働時間は(計算式)?</li> <li>労働者が受けとる生活物資の生産に必要な労働時間は(計算式)?</li> </ol> }} #qanda_solution(12,1){{ <p>解答</p> <ul> <li>$\displaystyle 10 時間 \div (30 - 10) kg = \frac{1}{2} 時間/kg$</li> <li>$\displaystyle\frac{1}{2}時間/kg \times 12 kg = 6時間$ </li> </ul> <p>解説</p> <ul> <li>つまり労働者は、①10時間労働して②6時間取り戻している(生活物資のかたちで)。</li> <li>純生産物(所得:通常価格の表示のとき所得といいますが...)の分配率は $6/10$ です。</li> <li>資本の側からみると、賃金労働者に$v=6時間$ を与えて、$m=10-6=4時間$をえていることになります。この率 $m/v=4/6$を「剰余価値率」とよびます。</li> <li>この率は、純生産物の物量と生活物資の物量の比率 つまり小麦の物量の比率 $12kg/(30-10)kg$ に一致します。 </li> <li>ということは、剰余価値率は物量タームでも表示できる....かというと?これは「集計問題」。来週話します。</li> </ul> }} #qanda(12,1) #qanda_scorechart(12,1) RIGHT:2 mini #qanda_set_qst(12,2,0){{ <p>11-1 では次のように$\mathcal{P},\mathcal{Q}$を分けて表記した。</p> $$\mathcal{P}\,:\, 小麦10kg + 労働10時間 \longrightarrow 小麦30kg$$ $$\mathcal{Q}\,:\, 小麦12kg を消費して\,10時間労働する$$ <p>これを次のように表記しなかったのは、両者の間に決定的な違いがあるから。</p> $$\mathcal{P}\,:\, 小麦10kg + 労働10時間 \longrightarrow 小麦30kg$$ $$\mathcal{Q}\,:\, 小麦12kg \longrightarrow 労働10時間$$ <p>$\mathcal{P},\mathcal{Q}$の間にある決定的な違いとは何か、簡潔にのべよ。</p> }} #qanda_solution(12,2){{ <p>解答</p> <ul> <li>生産技術の有無</li> </ul> <p>解説</p> <ul> <li>$\mathcal{P}$はモノの生産。だから投入と産出の間に客観的な関係が存在する。つまり「生産技術」が確立できる。</li> <li>しかし、$\mathcal{Q}$は労働者が「生活」することで労働する能力(労働力)が維持される、クッションをおいた関係。</li> $$\mathcal{P'}\,:\, 小麦20kg + 労働20時間 \longrightarrow 小麦60kg$$ $$\mathcal{Q'}\,:\, 小麦24kg \longrightarrow 労働20時間$$ <li>$\mathcal{P'}$にはなっても、必ずしも$\mathcal{Q'}$にはなららい。</li> <li>消費される生活物資の量がふえる、つまり生活水準が向上したら、その分、より多くの労働力が「生産」されるわけではない。</li> <li>労働力は生産物ではないのだ。労働力を「生産」するとか、労働力の再生産という用語は、この講義の教科書では徹底的にリジェクトしている。フツーのマルクス経済学の教科書に馴染んできた人は、ヒジョーに違和感を覚えるところ。</li> <li>しかし、①どれだけの生活物資を消費するか、ということと、②何時間はたくか、ということの間には自由度がある。これを教科書では「本源的弾力性」とよんでいる。</li> <li>この弾力性があるから、生産技術が変わらなくても、徐余暇地理は変わる。同じ生活物資$B$を与えながら、そこからより多くの労働時間$T$ を引きだすことができるから。</li> <li>逆に、$B$が増大しても$T$が増大するとはかぎらない。リッチな生活をしている人たちが、長時間労働しているか、というとそんなことはない。長期の歴史でみると、生活水準が上昇するなかで、総労働時間は減少する傾向にある。もちろん、ショートスパンでみれば、貧困化が進む現状はこの逆。</li> <li>もう一度注意しておきますが、今考えているのは、日本の経済のような大規模な社会的再生産。労働者一人ひとりの話ではありません。</li> </ul> <p>After</p> <ul> <li>$\mathcal{P}$は「生産」、$\mathcal{Q}$は「消費」だ、という回答が多く見受けられました。</li> <li>「減少」という意味では、$\mathcal{P}$の左辺、生産手段としての小麦は減少するマイナス量 $-10kg$ なので「消費」されたということもできます。ただ、右辺のプラスの粗生産物 $30kg$ の要因となっているので「生産的消費」とよばれています。</li> <li>これで、$\mathcal{P}$は「生産」、$\mathcal{Q}$は「消費」だ、で単純にはすまないのはわかりますか?</li> <li>ただしこの「生産的消費」という用語は、じつは混乱のもと。教科書ではリジェクトしました。... と思っていた、はからずも、p.145 でゴシック表記していました。ちょっとマズかったかも。</li> <li>「生産的消費」が混乱のもと、というのは、こういうわけです。「生産的消費」の反対は?というと ... 「不生産的消費」。</li> <li>「不生産的消費」とは?というと、何も生みださない消費、ということになります。「労働しない人々」がおり(たしかにいます、昔の大様とか貴族とか、もっぱらレジャーにいそしむ人たち。それに使えるサーバント。また王侯貴族を取りまく宮廷文化人や芸術家なども...。経済学が生まれたころの話ですが。そのあともこれに類する人はいましたし、資本家もこの部類だとされ、「不生産的消費」をしていると... )、この人たちは「不生産的」だ、「不生産的階級」だ、とみなされたわけです。</li> <li>じゃ、労働者は?... というと、もちろん「生産的」だ、労働者の消費は、やっぱり「生産的」だ、だって、ただ消費するだけではなくそれをもとにまた労働するのだから。</li> <li>... ということで、労働者も「生産的消費」をしている、といってしまうと、この問題の$\mathcal{P}$と$\mathcal{Q}$は両方とも「生産的消費」だということになり、そのかぎりは区別がつかなくなります。</li> <li>つまりは「生産的」vs「不生産的」という用語法が混乱のもと。教科書ではすくなくとも「不生産的」のほうはリジェクトして「生産的」という用語を「生産である」(つまりトータルでふえている過程)という意味に限定してつかっています。だったら「生産的」などと「的」をつけずに「生産」か「消費」か、これですませばいいんじゃない?...ご明察!</li> <li>というわけで、$\mathcal{P}$と$\mathcal{Q}$の区別は、生産か消費か、ではなく、中味でどう違うのか、ハッキリさせるべき。本問の「解答」はこの違いを一語に凝縮したものです。</li> </ul> }} #qanda(12,2) #qanda_scorechart(12,2) RIGHT:2 mini #qanda_set_qst(12,3,0){{ <p>William Petti という人の『政治算術』という本があります。昔の本ですが。それにならって...</p> <p>日本の人口が1億2千万、その半数が賃金労働者、この賃金労働者は1日8時間、週5日、年間365/7=52週中50週間はたらくとする。</p> <p>年間の総労働時間$T$は?</p> }} #qanda_solution(12,3){{ $120000000\div 2 \times 8 \times 5 \times 50 = 60000000 \times 2000 = 6\times 10^7 \times 2 \times 10^3 = 12 \times 10^{10} = 1200億時間$ }} #qanda(12,3) #qanda_scorechart(12,3) RIGHT:2 mini #qanda_set_qst(12,4,0){{ 賃金労働者の「賃金率」$w$ が平均で2500円/時間、つまり時給2500円だとすると労働者全体の所得はいくらになるか? }} #qanda_solution(12,4){{ $$Tw = 12 \times 10^{10} \times 25 \times 10^2 = 300 \times 10^{12} = 300兆円$$ <p>解説</p> <ul> <li>日本の国内総生産GDPがおよそ500兆円</li> <li>このうちには機械設備などの損耗分も100兆くらい含まれているので、正味の純生産物にあたるのは400兆円くらい。</li> <li>時給が平均2500円という見当でいえば、純生産物の分配率は$300/400$で75パーセント。つまり労働者が75パーセント受け取り、資本が残りの25パーセントをえてさまざまな所得にして再分配していることになる。</li> <li>剰余価値率は$m' = v/m = 100/300$ となります。</li> <li>... とはいえ、これは円表示の価格の決定理論を欠いているので、理論にはなりません。これから話すように「集計問題」をチャンと組み込まないと、分配の理論にはなりません。「集計問題」を解かずに、価格現象にオンブしているマクロ経済学は理論としては失格です。</li> </ul> }} #qanda(12,4) #qanda_scorechart(12,4) RIGHT:5 mini #qanda_set_qst(12,5,0){{ <p>生産技術が$\mathcal{P''}$のように変化した。このとき剰余価値率は?</p> $$\mathcal{P''}\,:\, 小麦20kg + 労働10時間 \longrightarrow 小麦60kg$$ $$\mathcal{Q}\,:\, 小麦12kg を消費して10時間\,労働する$$ }} #qanda_solution(12,5){{ <p>解答</p> <p>小麦1kgの生産に必要な労働時間は</p> $$\displaystyle 10\div (60-20) = \frac{1}{4} h/kg$$ <p>生活物資を生産するのに必要な労働時間は</p> $$\displaystyle 12kg \times \frac{1}{4} h/kg = 3h$$ <p>剰余生産物の生産に必要な労働時間は</p> $$\displaystyle 10h - 3h = 7h$$ <p>剰余価値率は労働者が生活物資のかたちで取り戻した労働時間と、それを上まわる労働時間の比率だから</p> $$\displaystyle 剰余価値率 = \frac{7}{3}$$ <p>After</p> $$\displaystyle m' = \frac{T - Bt}{Bt}$$ <p>なのですが、労働時間を迂回しなくてもストレートに小麦の量で考えれば、答はでます。こっちで回答した人がけっこういました。</p> $$\displaystyle m' = \frac{X - B}{B}$$ <p>正解です。ただこのやり方が通用するのは<span class="tooltip">.....<span class="dscp"><span class="text">生産物が小麦一種類</span></span></span>だからです。</p> }} #qanda(12,5) #qanda_scorechart(12,5) RIGHT:2 mini #qanda_set_qst(12,6,0){{ <p>$\mathcal{P}\to \mathcal{P''}$は何を意味しているのか?</p> }} #qanda_solution(12,6){{ <p>解答</p> <ul> <li>技術の進歩</li> <li>生産力の上昇</li> </ul> <p>解説</p> <ul> <li>同じ10時間にまける小麦の量が2倍になったのだから、生産力が上昇したといえるだろう。</li> <li>その結果、収穫される小麦の量も2倍になったというケース。</li> <li>小麦のように自然環境に強く依存する生産では、収穫が比例的はにふない、だんだん減ってくる、という人もいる。収穫逓減。ここから、いちばん劣等な条件を基準として差額が地代になる、という地代論などがよく知られている。差額地代論。</li> <li>が、現代の工業生産では、同じ条件で同じモノを大量に生産している。基本は収穫不変。生産技術があるということは、同じモノが同じコストでいくらでも生産できるということ。この講義ではこの考えてゆきます。</li> </ul> }} #qanda(12,6) RIGHT:2 mini #qanda_set_qst(12,7,0){{ <p>生産力の上昇は、労働力を今までより減らし、労働者の生活物資を減らすことで、剰余価値率を引き上げる。</p> <p>真か偽か、理由を述べよ。</p> }} #qanda_solution(12,7){{ <p>解答</p> <ul> <li>偽</li> <li>生産力の上昇が剰余価値率を引き上げるのは、生活物資一単位の生産に必要な労働時間$t$を引き下げることで、労働者の消費する生活物資の総量$B$が同じでも、労働者の取り戻す労働時間を減少させるから。</li> <li>生産力の上昇に、労働者の生活水準を引き下げる直接的な効果はない。</li> </ul> <p>解説</p> <ul> <li>生産力の上昇が、失業を生み、総雇傭量 $T$ をへらす、という理論は、生産規模が一定なら、という条件を追加すれば成りたちます。</li> <li>ただ$T$が半分になって、それに比例して、労働者が獲得する生活物資$B$が半分になってもそれだけでは剰余価値率は変わりません。</li> <li>なぜ?って....$\displaystyle m' = \frac{T-Bt}{Bt}$ をよく見れば分かります。</li> </ul> }} #qanda(12,7) *まとめ [#a6d75b4b] #divregion(分配の基本原理, lec=12 , qnum=7 ,admin) -生産を労働がコントロールする構造には、生産技術できまる関係 $\mathcal{P}$ と純生産物の分配をきめる社会的力関係 $\mathcal{Q}$ が作用している。 -純生産物の分配のコアは、$\mathcal{Q}$における労働力のもつ「本源的弾力性」である。 -さらに分配率は、$\mathcal{P}$に示される「生産力」によって左右される。 $\displaystyle m' = \frac{T-Bt}{Bt}$ -これが基本の基本。ただ、生産物が小麦だけ、という超単純な設定になっている。これは分かりすぎ。社会的生産、つまり複数の生産が連鎖しているとき、こんなことがいえるのだろうか?それはまた来週。 #enddivregion