#author("2020-07-28T16:38:44+09:00","default:obata","obata") #author("2020-08-07T21:56:36+09:00","default:obata","obata") CENTER:[[前回 ◁ >2020年度/夏学期/第9講]]&color(#447CFF){第 &size(32){10}; 講}; [[▷ 次回>2020年度/夏学期/第11講]] #qanda_mathjax ----- CENTER:&size(25){&color(yellow,navy){ 商品売買の変形:売るまえに買う };}; ---- *講義の概要 [#d0b01c07] -前半では残した「蓄蔵手段」を含め、「売ってらから買う」 W --- G ---W' 型の商品売買についてまとめます。 -後半では「売るまえに買う」活動がもたらす市場の変形について学びます。 *市場の変形:売ってから買うだけが能ではない [#x022548a] **販売の困難:買うは易く売るは難し [#x18326ca] #qanda_set_qst(10,1,0){{ <p>「どのような商品でも、価格を下げれば、すぐ売れるはずである。</p> <p>それなのに、売れずに店の陳列棚に商品が積まれているのは、競争がおこなわれておらず、価格が充分に下がらないからだ。」</p> <p>この主張は真か偽か。根拠を述べよ。</p> }} #qanda_solution(10,1){{ <p>偽</p> <p>同種商品が存在し、複数の売り手が我先に売ろうと競争する環境のもとでは、その商品の価値を表現した価格で売るにはランダムな期間がかかる。競争の結果、陳列棚に商品が積まれているのである。 <p>参考:「二つの要因を考える必要がある. 第 1の要因は,売り手の間の牽制作用である。 もし,ある売り手が,周囲よりも低い価格をつけようとしても, もっと価格 を下げる売り手がでてくる可能性がある。買い手はつねに周囲の売り手たちの顔色 をうかがっている. こうしたなかでは,多少値段を下げれば即座に売れる,という わけにはいかないだろうと, どの売り手も予想する. 同じような予感を生む客観的 環境下に棲んでいるのだ. 同種商品は,いわば,水平に張られたネットのうえにお かれているボールのようなもので,自分のボールを押し下げれば,周囲のボールの 位置も変化することが,どの売り手にもみえているのだ. こうした状況では,自力 で,有意な価格差を生みだすことは容易ではない. 売り手も買い手も,相手の出方 を見越すから,同種商品の価格に大きな差を期待することはしない. こうした相互 牽制が,価格というネットをほぼ水平に維持する張力となる。</p> <p>第2 の要因は,商品価値の実現に対する売り手の姿勢である.売り手は自分の 商品には,ある大きさの価値があると信じ,それに相応する価格を自ら判断し表 示する. そして,それを実現しようとする. 売り手が自ら価値評価し,価格設定す るのであり,他人まかせで自動的にきまるとは考えていない. 早く売ろうとはする が,それはあくまでも適正な価格で, という条件のもとでである. いくらでもよい から, ともかく売れればよいというわけではない. このような価値実現をめざす主 体的行動が,主体間の牽制作用によって張られた価格ネットのうえで,在庫という 現象を生みだすのである.」(教科書298頁 問題43の解答)</p> }} RIGHT:3minutes #qanda(10,1); #qanda_scorechart(10,1); #divregion(在庫,lec=10,qnum=1,admin) -貨幣があれば、何でもすぐに買えるのは,すべての商品が貨幣の量でその価値を表示し,買い手を待ちうけているからである. -商品はみな,その表示価格でならいつでも売ると宣言し待機している. このような商品の集合を,広く''在庫''と よぶ. #enddivregion #qanda_set_qst(10,2,0){{ <p>自分と同じ種類の商品の売り手が、自分も含めて10人いる。</p> <p>みんなその商品を1個もっており、売れたらまた新しい同じ種類の商品をもって売りにくる。</p> <p>一日一個が買われる。これは規則的。</p> <p>だが、だれの商品が売れるかは偶然。売れる確率はだれも 0.1。</p> <p>さて、10日目までに自分の商品が売れている確率はどのくらいか。</p> }} #ref(sellrandom.png,,,30%) #qanda_solution(10,2){{ <div> 1日目に売れていない確率は $$\cdots 1 - 0.1 = 0.9$$ 2日目にまだ売れていない確率は$$ \cdots (1 - 0.1)(1 - 0.1) = 0.81$$ 10日目にまだ売れていない確率は $$ \cdots (1 - 0.1)^{10} = 0.3486784401000001$$ 10日目までに売れている確率は $$\cdots 1- (1 - 0.1)^{10} \fallingdotseq 0.65$$ </div> }} RIGHT:2minutes #qanda(10,2) #qanda_scorechart(10,2); #qanda_set_qst(10,3,0){{ <p>10-2のつづき。 <p>「待っていれば、いつかは売れる。」 <p>真か偽か。根拠を述べよ。</p> }} #qanda_solution(10,3){{ <p>∞日目までに売れてる確率は $1- {(1 - 0.1)}^∞ \fallingdotseq 1$ </p> <p>無限大の時間、待てば、売れていない確率は限りなくゼロに近づく。</p> <p>「限りなくゼロ」ということを「ゼロだ」とみなせば「いつかは売れる」が。</p> <p>ゼロに近づくだけでゼロではないとみなせば「いくら待っても売れないことがある」ことになる。</p> <p>極値の解釈だ、という根拠が示されていればOK。真偽は解釈でいずれにも。</p> }} RIGHT:2minute #qanda(10,3) #qanda_scorechart(10,3); #qanda_set_qst(10,13,0){{ <p>10-3のつづき。</p> <p>平均何日で売れるか?</p> }} #qanda_solution(10,13){{ <p> $1\times 0.1 + 2\times 0.1 \times 0.9+3\times 0.1 \times 0.9^2 + \cdots = 10$</p> <p> 平均すると10日で売れる。でも、10日目までに売れている確率は約65パーセント。</p> <p>平均10日で売れるのだから、と思って、10日分の購買のための準備をしていても、35パーセント、準備不足の状態になってしまう。</p> }} RIGHT:2minute #qanda(10,13) #qanda_scorechart(10,13) #divregion(after,lec=10,qnum=13,admin) -残念ながら計算式を書いてくれた人はいませんでした。二つポイントがあります。 -一つ目、確率的な現象における「平均」の意味。 --「平均」というのが、結果の平均、確率1の世界でしか成りたたない、とすれば、この問いは無意味。ということは、いろいろな確率で起こる事象についての「平均」、つまり起こりそうな度合い、期待値をいっているのだ、ということになる。 --サイコロをふって1がでたら100円、2がでたら200円、という賭けをやったとき、何度も繰り返したら平均でいくらの収益が上がるか、というあの問題です。$$100\times 1/6+ 200\times 1/6\cdots +600\times 1/6=2100/6=350$$かな? たくさんこの賭けをやったとき、「平均」で350円のバックがある、350円以下の賭け金でこの賭けができればハッピー。 --サイコロの目は全部同じ確率 $1/6$ ででるならこれでよし。もしサイコロに細工がしてあって、1の目が$1/12$、6の目が$3/12$の確率ででるなら.... 有利不利を分ける賭け金は? ...なんていう話、子供のころ、きいたかも。 --ということで、平均何日で売れるかも同じ。何回もやったら「平均」何日で売れるか、という期待値です。 -二つ目は、極限の扱い方。 --永遠に売れない可能性もあるときの「平均」って考えられるのか?という問題 --N日目に売れる確率は、Nが伸びるにしたって、べき乗で小さくなってゆく。 --ずっと先のN日目まで売れない確率は、限りなくゼロに近いわけです。 --これを織り込んで、だいたい何日で売れていると期待してよいのか、が問題です。 --一日目に売れている確率は $A$ --二日目に売れる確率は、一日目に売れなくて二日目に売れる確率だから $B \times A$ --三日目に売れる確率は、一日目に売れなくて、二日目に売れなくて、三日目に売れる確率だから $B \times B\times A$ --平均何日で売れるか?は、一日目に売れる確率 + 二日目に売れる確率 + ....... となるから、解答に書いた式を計算すると10日になる、というわけです。 -惜しいかな! --その日までに売れている確率を考えて、これが0.5になる日が「平均」だとする回答がありました。 --$1-{0.9}^n = 0.5$ から、$6<n<7$ ということで、6から7日が平均だと答えてくれました。 --たしかに、このn日までに半分のケースで売れているわけですが、このあと、売れている確率は尻すぼみになってゆくのです。 --言い換えると、1日目に売れる確率が0.1でいちばん高く、ちょうど2日目に売れる確率は$0.1\times 0.9$、ちょうど3日目に売れる確率は$0.1\times {0.9}^2$ と逓減してゆきます。この値を足しあわせて0.5になったとしても($1-{0.9}^n = 0.5$とはチョット違いますが)、0.5が平均ということにならなりません。逓減してゆくのだから、nをもっと大きくとらないと、平均と期待してよい日数にならないだろうな、とわかる、かな? #enddivregion #qanda_set_qst(10,14,0){{ <p>10-13のつづき。 <p>10人が列をつくって順番に売るとすれば10日目に売れるはず。<p> <p>列をつくらず我先に売ろうとすると10日目より早く売れる者もでるが遅く売れる者もでる。 <p>でもそれは10日を中心にばらけるのだから平均10日で売れることに変わりはない。 <p>この推論は正しいだろうか。</p> }} RIGHT:2minute #qanda_solution(10,14){{ <p>答えは正しいが、「10日を中心にばらける」という推論は誤り。</p> <p>正規分布のように10日目を中心に散らばるわけではないのです。<p> <p>10日目より早く売れている確率のほうが、遅く売れる確率より高い。0.65 > 0.35 <p> <p>でも、たしかに、この日を境にしてそれまでに売れている可能性と、これから後に売れる可能性が等しくなる、わけです。</p> <p>日にちを横軸にとって、タテ軸に確率がゼロから1まで逓減的接近する累乗のグラフを描き、じっくり眺めてみればわかるかも。抽象的直観がはたらく人ならば...</p> <p>数式をたて計算することだけを「数学的」と信じている人には、俄に首肯しがたいことかもしれませんが....<p> }} RIGHT:2minute #qanda(10,14) #qanda_scorechart(10,14) #divregion(アンチミクロ,lec=10,qnum=3,admin) -ミクロ経済学は、 > +すべての商品について需要と供給が一致する価格比がきまる +→この比率で、間接的な物々交換 +→すべての財が交換され、市場はカラになる(財はクリアされる) < という市場を想定(基本はこれ、実際にはアレコレ摩擦があり... というが) -マルクス経済学は > +商品には価値があり、 +価値を表現した価格で売るには +ランダムな期間がかかる(販売期間の存在) < +という''在庫と貨幣が実在する市場''が基本 #enddivregion #divregion(値引き,lec=10,qnum=3,admin) -同じ商品(同種商品)を、たくさんの売り手が、競って売る市場を考える。 -市場には多くの売り手がつけている標準的な価格がある。 -この標準的な価格が、その商品の価値の大きさを表している。 -同種の商品だから、だれもがみな、同じ価格をつけている。 -だれが売れるかは偶然。 -たまたま運がわるく、なかなか売れない人がでてくる。 -売れない日が続いても、ある程度は余分の貨幣をもっていれば、それで調整できるが、 -それもいずれは底をつき、必要なものは買わなくてはならなくなる。 -あなたならどうするか? -いちばん簡単なのは''値下げ'' -みんながつけている標準的な価格よりも低い価格をつける。 -うまくゆくだろうか?チョットだけ、下げてみたが.... -しかし、となりの売り手のなかには、すぐに同じだけ値引きするヤツがでてくる。 -思い切り値引きしないと、すぐ即決で売るのはムズかしい。 -..... ほかに何かよい手はないか? #enddivregion **回り道:窮すれば通ず [#vaf35253] #qanda_set_qst(10,4,0){{ <p>あなたがブティックをやってるとしよう。</p> <p>店には100万円ぶんの商品が並べてある。</p> <p>いつもの月は最低50万円の売り上げはあり、30万円のテナントの家賃はらくに払える。</p> <p>ところが今月は、運わるく、まだ20万円の売り上げしかない。</p> <p>家賃の支払い、困ったな!あなたならどうしますか。</p> <p>窮すれば通ず、いくつかやり方はありそう。</p> <p>でも、ここは「原論」、アレコレ並べるのはダメ。理論的に整理してみてください。</p> }} #qanda_solution(10,4){{ <p>「困ったな!」というのは、もちろん、いま手元に、支払に使える現金も預金もない、という意味。貯金があれば困りはしない。</p> <ol> <li>値引き:だれでも考えつくこと。たしかに宣伝は必要。でも値下げもせずにただ「売ってますよ〜」って宣伝してもすぐに売れはしない。「セールはじめました!」と宣伝はするものなり。 <li>家賃を待ってもらう:といっても、そう簡単にはOKしてくれないでしょう。そこで、今月分の家賃、ちょっと余計に払うから、来月までよろしく、お願いします... くらいは言わないとダメ。 <li>貨幣を借りる:家主があまり家賃の割増を要求するようなら、現金を借りて、定額で払ってしまおう。 でも、だれもタダでは貸してくれない。恒常的な取引がある銀行なら貸し越し(預金がゼロでも)してくれるかも(ただし負債>預金の預金設定)。あるいは来月12万返すから、いま10万円貸して.... と、知り合いに頼む。友達がいなければ、質屋さんもいるし、マチ金(高利貸)という手もあるし.... <li>商品を引き取ってもらう:売れ行きよさそうな同業者に頼めば在庫を引き取ってくれるかも。でも、足下を見られ、12万円、13万円、14万円...相当の商品を10万円に、買い叩かれるかも.... </ol> <hr width="300" color="green" noshade> <p style="text-align:center;font-weight:bold">値引き ⇄ 後払い ⇄ 借り入れ ⇄販売委託</p> <hr width="300" color="green" noshade> <p style="color:blue"> 解説 <p> <p>異なる対応策があり、その間に</p> <p style="text-align:center;font-weight:bold">値引き販売による損失≒家賃の割増分≒借入利子≒販売委託による損失</p> というマイナスの関連がある。このマイナスを見くらべ、意志決定をしなくてはならない。</p> <p>そして大事なこと、一度決定を実行したら、基本、やり直しナシ! 後には戻せない。キッパリ決断しよう。やっぱり .... にしておけばよかった、といっても後の祭り。貨幣を中心とした市場では、一度 X 円で G---W をやったら、同じX円だからといって、簡単に W --- G ができるわけではない。</p> <p>人生、<span style="color:#ff0000">過去に学ぶことはできても過去に戻ることはできません</span>、老態龍鍾を省みて若いみなさんに一言。</P> }} RIGHT:5minute #qanda(10,4) #qanda_scorechart(10,4) **売買と貸借 [#m5d0136c] #qanda_set_qst(10,5,0){{ <p>土地Aを100万円払って1年間「借りる」ことを、「借りる」という言葉を使わずに言ってみよう。</p> }} #qanda_solution(10,5){{ 土地Aを1年間利用する権利(利用権)を100万円で「買った」。 }} RIGHT:1minute #qanda(10,5) #qanda_scorechart(10,5) #qanda_set_qst(10,6,0){{ <p>利子は貨幣の価格である。</p> <p>真か偽か、判断の根拠を述べよ。</p> }} #qanda_solution(10,6){{ <p>偽</p> <p>利子は貨幣の一定期間の利用権の価格である。</p> <p>100万円の利子で1000万円が買えるはずがない。</p> <p>利子は、貨幣の賃料。</p> <p>土地が賃料が地代であるのと同じく、貨幣の賃料が利子なのだ。</p> <p>一般に、なにかの一定期間の利用権の価格が賃料。</p> <p>地代も、利子も、レンタル料も、みんな賃料の一種。</p> }} RIGHT:2 minute #qanda(10,6) #qanda_scorechart(10,6) #qanda_set_qst(10,7,0){{ <p>貨幣利子率を、借りた貨幣の金額と貨幣利子の比率と定義するように、</p> <p>一定の条件が満たされれば、</p> <p>小麦利子率や鉄利子率など、さまざまな利子率が定義できる。</p> <p>さて、この「一定の条件」とはなにか?</p> }} #qanda_solution(10,7){{ <p>借りたモノと同種のモノがいくらでも手に入ること。</p> <p>小麦1トンを借りて、小麦1.1トンを返すには、借りた1トンと同種の0.1トンが必要。</p> <p>土地を借りた場合、同じ土地が追加できないので、地代率は定義できない。</p> }} RIGHT:2 minute #qanda(10,7) #qanda_scorechart(10,7) #qanda_set_qst(10,8,0){{ <p>貨幣は時間の経過とともに利子を生み自然にふえる。</p> <p>真か偽か、判断の根拠を述べよ。</p> }} #qanda_solution(10,8){{ <p>偽</p> <p>貸さねばふえぬ。もとより「自然に」ふえるわけではない。</p> <p>貸した貨幣は、借り主が使うのであり、貸し主はその間使えない。</p> <p>返済された貨幣は、元とのままの金額。元本は1円もふえていない。</p> <p>ただ、賃料としての利子が、利用料として支払われただけ。</p> <p>ところが、賃料を利子率という元本に対する比率で表示するため、元本自体がふえたという錯覚を生み、</p> <p>その結果「利子生み資本」などという混乱した用語が氾濫する。</p> }} RIGHT:2 minute #qanda(10,8) #qanda_scorechart(10,8) **まとめ [#y4a4a08d] #divregion(特にレンタル,lec=10,qnum=8,admin) -価値どおりに売る期間に偶然性があるため、売ってから買うという売買方式は、売るまえに買う方式に変形することがある。 -賃料をとってモノを貸す行為は、モノの利用権の売買である。 -モノそのものを商品として売買するだけではなく、モノの利用権を商品として売買するレンタル市場が広く存在する。 --これを有形・無形などと区別するのは無意味。財とサービスなどという区別は、ここでキッパリ捨てよう。 --レンタルされる利用権は、定量化されている。1年間、この土地を、というように。したがって、利用権も''はかる''ことのできる''モノ''である。 --レンタルとリースの違いは?...とか、具体名をあげると、途端に細かい区別に興味を示す人がいますが、ここは原論、「レンタル」は利用権の売買の略称です。その興味はWEB検索で満たしてください。 -貨幣も貸借されることで、その利用権が売買され、賃料が利子率として表示される。 #enddivregion #qanda_set_qst(10,15,0){{ <p>質問があれば...</p> <p>あくまで講義内容についての、学問的な質問です。</p> }} #qanda(10,15)