#author("2020-05-20T11:38:20+09:00","default:obata","obata")
#author("2020-05-20T11:44:27+09:00","default:obata","obata")
CENTER:[[前回 ◁ >2020年度/夏学期/第1講]]&color(#447CFF){第 &size(32){2}; 講};  [[▷ 次回>2020年度/夏学期/第3講]]
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#qanda_setstid(2020-05-14 16:10:00,90)
#qanda_who
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CENTER:&size(25){&color(yellow,navy){ };};
CENTER:&size(25){&color(yellow,navy){ モノと商品 };};
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*はじめに [#q4cc726f]
**夏学期の経済学1 と冬学期経済学2の関係 [#k4e9d239]
-全体のテーマは「資本主義とはなにか?」です。
-「資本主義」とは、ひと言でいえば、
>
① どのような社会でも不可欠な''生産''を~
② ''市場''という特殊なシステムで
<
処理する経済です。
-夏学期は、②''市場''のほうを先に学んでゆきます。
-ポイントは、''貨幣''の存在です。
>
+市場といえば、まず貨幣が存在するのはアタリマエ。でも、経済学の多くは、貨幣を「あってなきがごとき存在」にしている。
++貨幣は交換のための媒介''手段''に過ぎない、
++あるいは、貨幣は実体(真の姿)をおおう''ヴェール''だ、と考えているからです。
+これに対してこの講義では、徹底的に貨幣の存在理由を追及し、「売るのに手間暇がかかる市場」の理論を組み立てます。
++さらにこれをもとに、営利企業の実際のすがた、すなわち「資本」や
++貨幣の融通のしくみ、つまり信用機構について考えてゆきます。
<
-冬学期は、''生産''について考えます。
-ポイントは、労働を人間の活動様式として、従来より広い視野で捉えなおすことにあります。
>
+そのうえで''生産''の全体的な構造を分析し、
+''生産''と''市場''が結合した価格機構について考えゆきます。
<

#divregion(注意)
-ただし、「資本主義とは何か?」という問題の立て方は、わかったような気がするだけでホントは何もわかっていない、問題の本質を隠してしまう危険があるので注意が必要です。
-余裕のある人は、教科書2ページの問題1(「資本主義''とは''何か」 という問いは,本当に成りたつのだろうか.)にチャレンジしてみてください。
-「経済学でカネもうけできる''とは''どういうことか」という問題は、「経済学を勉強したってちっともカネなどもうからない」という事実を隠してしまいます。
-「経済学でカネもうけできる」のはアタリマエだとして、それは「どういうことなのか」考えようとしているわけで、ここが盲点です。
#enddivregion


**貨幣とは... [#x5d19819]
-ということで、今回から、「貨幣について」話をします。
-「...とは何か」は危険だよ、といったあとでいきなり「貨幣とは何か」はないのですが、
-「貨幣」というのは、だれも「知っている」(気がする)ものの代表選手です。用心しましょう。
-こういうものは、チャンと定義するのが実はとてもずかしい。
-そこでいきなり、質問です。
#qanda_set_qst(2,1,0){{
<p>たとえばいま、「貨幣ってなにか、教えて」って中学生にきかれたらどう答えますか?</p>
<p>「おカネのことだよ。」って....それは、おカネとはなにか、知っていることを前提に、言い換えているだけ。答えにはなりません。「そのおカネって、なんなの?」ときかれているわけですから。</p>
<p>さあ、あなたなら、どんなふうに教えてあげますか?</p>
}}
#qanda(2,1)

#divregion(解説, admin, lec=2,qnum=1)
-だれでも見知っている「貨幣」ですが、あらためて「それがなにか?」ときかれるとわからなくなる。
-お金を使うことはたやすいですが、説明するのはむずかしい。
-100円玉をみせて「これだよ」といいたくなる。
-でも「じゃ、千円札は、おカネじゃないの?」といわれると、「いや、百円とか、千円とか、書いてあるじゃん。『円』って書いてあるのがおカネだよ。」
-まだまだ、中学生は食いさがってくる。「じゃ、スイカはどうなの?」「...?」「ビットコインは貨幣?」「リブラは?」「...??」
//--[[小判>https://www.imes.boj.or.jp/cm/collection/tenjizuroku/mod/book/html5.html#page=44]]
//--[[中国のキャッシュレス化1>https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190411-61726782-business-cn]]
//--[[中国のキャッシュレス化2>https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190411-61726782-business-cn]]
-「貨幣''のようなもの''」がいろいろあって、定義がむずかしいのです。
-わかったようでわからない、何かヘンテコな感じ、この種の「むずしさ」は経済学ではよくあることです。
-お金の姿は時代とともに変わってゆきますから、実例をいくら集めてもキリがありません。
-「変身するお金」の正体を突きとめなくてはなりません。
#enddivregion

#qanda_set_qst(2,2,0){{
<p>100円玉や千円札を、いくらひねくりまわしても、透かしてみても、その正体はわからない。
考えてみれば当たり前。だって....</p>
<p>貨幣はそれだけ単独で意味をもつものではないのだから。</p>
<p>貨幣とは、つまり、相手あっての物種(ものだね)。</p>
<p>そこで質問です。</p>
<p>その相手とは....?</p>
<p>相手との関係は....?(相手に何かができる、その「何か」って?)</p>
}}
#qanda(2,2)

#divregion(解答,lec=2,qnum=2,admin)
-相手は「商品」で、貨幣は商品を「買う」ことができるもの。
#enddivregion

#qanda_set_qst(2,3,0){{
子供にもわかるように「商品」を定義してください。
}}
#qanda(2,3)

#divregion(解説,lec=2,qnum=3,admin)
-ところが、この相手の正体が実はよくわからない。
-どうも、''...のようなもの'' がいろいろでてきて、キッちり定義できないのです。
-次の問題はむずかしいですが、がんばって考えてみてください。
--「わかりません」という回答にはマイナス点をつけます。
--だれもすぐにはわかない話です。自分のアタマで一歩でも、いや一頭でも、まえに進もうとする気合いが肝心、この気合いを評価したいと思います。

#divregion(ちょっと目をつぶって...と三回唱えてチャレンジしよう)
-当たり前はアタリマエじゃない。すべては怪しい。
-世間の常識に惑わされず、自分のアタマ(理性)を信じよう。
-私が正しく考えたことが正しいのだ。
#enddivregion

#enddivregion

#qanda_set_qst(2,4,0){{
①「リンゴはXである」と②「このリンゴはXである」はどう違うのでしょうか?
}}
#qanda(2,4)

#divregion(解答,lec=2,qnum=4,admin)
-②なら「このリンゴはXだが、あのリンゴはXじゃない」といえるが、①ではいえない。
-②「このリンゴは赤い」は正しくても、青いリンゴもあるから①「リンゴは赤い」は正しくない。
#enddivregion

#divregion(解説,lec=2,qnum=4,admin)
-いま、①のスタイルで「商品はXである」と定義したいわけですが、
-どうしても②のようになりがち...
-このように、次々に例外(''のようなもの'')がでて困っちゃう。そんなとき、どうしたらよいのでしょうか?
-商品の定義って、一筋縄ではゆかない.... ということがわかってきましたか?
-こういうときの定義の仕方を教えます。いろいろなやり方のうちの一つに過ぎませんが、それは
>
-だれでもわかる、疑問がでないものYをつかって、
-XはYではあるが、ただのYでは「ない」というかたちで定義する手です。
-位置だけあって長さも幅も「ない」ものを「点」という... 感じに似ているかな?
-つまり''否定形を使った定義''です。
<
-否定形の定義を2回つかって、Xを定義します。
>
+まず広く「モノ」の定義をしてみます。
+それからただのモノではない「財」goods の定義をします。
+最後にただの「財」ではないXの定義

<
-つまり「モノ」 → 財 goods → 商品 と進もうというわけ。
#enddivregion

***ひと休み [#p86fba3b]
#qanda_set_qst(2,10,0){{
ここまでで、なにか、わからないこと、ありますか?
}}
#qanda(2,10)

**「モノ」 [#gbe889ac]
-はじめに「モノ」の定義を考えてみます。

#qanda_set_qst(2,5,0){{
教科書には「ここでモノというのは,とりあえず「あれ」とか「これ」とか,指し示し特定できる外的対象のことである」 (21ページの第二パラグラフ)と書いてあるが、「指し示し特定できる」ってどういうことか、いまいち、ピンとこない。
「リンゴはモノだから何々できるけど、愛はモノじゃないので何々できない」というとき、「何々できる」はふつう、「指し示し特定できる」なんていわずに、なんていいますか。
}}
#qanda(2,5)
#divregion(解答,lec=2,qnum=5,admin)
-「はかれる」
#enddivregion
#divregion(解説,lec=2,qnum=5,admin)
-「はかれる」というのは、だれがいつはかっても変わらない量になるという性質です。
-計量計測できるという性質:計測可能性
-世の中には、「はかれるモノ」とそうでないものがある。たとえば、名誉とか、愛情とか、美しさとか、....
-はかれないものも、素晴らしいとか、くだらないとか、「評価」の対象にはなりますが、計量計測はできません。
-「計測」は「評価」と違います。ここでは注意だけしておきます。言葉は厳密に正しくつかおう!!
#enddivregion

#qanda_set_qst(2,6,0){{
「抽象的であまり役にたちそうにないことを考えている、形而上学だ」という声が聞こえてきますが、たとえば情報の問題などを経済学で考える基礎の基礎になります。
この基礎の基礎をないがしろにして、むずかしいことを考えると、ほんとうにメチャクチャなことになります。
...ということで質問です。

情報はモノか?

}}
#qanda(2,6)

#divregion(解答,lec=2,qnum=6,admin)
-情報は、伝えられる内容、つまりコンテンツと、伝えるための媒体、すなわちメディアからなる。
-メディアはモノだが、コンテンツはモノではない。
#enddivregion
#divregion(解説,lec=2,qnum=6,admin)
-たとえば、ライブのこの講義も一種の情報です。
-メディアはデータストリーミングというデータの流れです。
-今録音中ですが、この講義が終われば、何メガバイトかのファイルになるでしょう。
-あるいはもっとふつうの言い方をすれば、講義時間として、だれが聞いても90分の講義です。
-しかしコンテンツはかることはできません。講義の内容は、人によって評価がまちまちです。
-講義時間はモノですが、講義内容はモノではありません。
-私は決まった時間の講義をして給料をもらう非常勤講師です。
-講義内容によって給料は変わりません。でも手抜きはしませんが、
-モノの定義をチャンとしないと、「情報はコピーすればタダでいくらでもふやせるものだ」といった、メチャクチャなはなしになります。
-教科書の問題5は重要です。考えてみてください。
 ここで考えている カ タ カ ナ 表 記 の 「モ ノ 」 は , 自然科学が 扱う客観的存在としての「物」とはちょっと違う。物は主体の関心の対象として,はじめてモノとして現れるのである。このようなモノと主 体の関係は,モノの複製について考えてみるとはっきりする。そこで問題。 モノは複製によって増えるか。

#enddivregion

**財 goods [#d4016028]
-定義の仕方がわかったので、あとは簡単。

#divregion(財の定義,lec=2,qnum=6,admin)
-財はモノだが、ただのモノではない。
-財とモノの違いは、持ち主を登場させればはっきりします。
-モノは持ち主にとって、役にたったりたたなかったりします。
-この役立ち、有用性、効用を、マルクス経済学では「使用価値」とよんできました。
-財とは、
 使用価値をもつモノ
である。これが財の定義です。
#enddivregion

#qanda_set_qst(2,7,0){{
財でないモノをふつうなんとよびますか。
}}
#qanda(2,7)
#divregion(解答,lec=2,qnum=7,admin)
-ゴミ
#enddivregion


** 商品 [#ea70545d]
#divregion(商品の定義,lec=2,qnum=7,admin)
-商品は財だが、ただの財ではない。
-財なら何らかの使用価値をもつが、その使用価値が持ち主にはゼロである、そんな財が商品である。
-つまり商品とは
 他人のための使用価値をもつ財
である、というのが商品の定義です。
#enddivregion

#qanda_set_qst(2,8,0){{
商品という言葉があるのですから、とにかく、どこかに存在しているはずです。
... ということでお尋ねします。
あなたは何か商品をもっていますか。もっているならそれはなんですか。
もっていないという人は、それはどこにいけばお目にかかれるのでしょうか、教えてください。
}}
#qanda(2,8)

#divregion(解答,lec=2,qnum=8,admin)
-みなさんがもっている身の回りのモノは、もらったモノや無断で拝借した(犯罪です)モノもあるでしょうが、たいてい買ったモノです。
-それらは、買うまでは商品だったのですが、買ったあとはタダの財です。だからみなさんのもっているものは、ほとんど財です。
-商品にお目にかかりたければ、お店にゆけばよい。ギッシリ、棚にならんでいます。
-もし自分が商品をもっているとすれば、それは労働力でしょうか。
-少なくとも私の場合、売れるものはこれしかありません。
#enddivregion

** まとめ [#ae042f1b]
-いろいろ面倒な話をしましたが、

#divregion(要するに,lec=2,qnum=8,admin)
+貨幣を直接定義するのはむずかし。
+相手を商品に、商品を買えるものというかたちで定義する手がある。
+ところが、この商品の定義が一筋縄ではいかない。
+そこで、モノからはじめて、タダのモノでない財、タダの財でない商品と順繰りに否定形で定義した。
#enddivregion

....というお話でした。

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