#author("2020-06-28T19:58:15+09:00","default:obata","obata") #author("2020-07-01T19:44:29+09:00","default:obata","obata") CENTER:[[前回 ◁ >2020年度/夏学期/第6講]]&color(#447CFF){第 &size(32){7}; 講}; [[▷ 次回>2020年度/夏学期/第8講]] ---- #katex #qanda_setstid(2020-06-18 16:10:00,90) #qanda_who //#qanda_points_chart //[[よい解答がありました。>2020年度/夏学期/第7講/カット部分]] ----- CENTER:&size(25){&color(yellow,navy){銀行券と預金};}; ---- *概要 [#n2b1ce3b] -前半では、信用貨幣を代表する今日の中央銀行券について学びます。 -後半では、信用貨幣である預金通貨などの派生態について学びます。 *中央銀行券と預金通貨 [#z98da240] #divregion(信用貨幣は商品貨幣か,lec=7,qnum=20,admin) -信用貨幣について、原理的な再検討を試みます。 -価値表現に必須なのは、 #divregion ①''計数可能性''(数えられること) #enddivregion と #divregion ②''安定した価値の大きさ''(持続性をもった等価物であること) #enddivregion の二つです。 -この二つの条件を満たすものであれば、物品(モノ)だけではなく、 #divregion ''債権'' #enddivregion もまた、商品の価値を表現するのに使えます。 -このような債権による持続的一般的等価物を、「債権型貨幣」と定義し、「信用貨幣」とよびます。 -ここでの「信用貨幣」という呼び名は、広く一般に信用貨幣とよばれているものを含みます。 --「債権型貨幣」が数学上の点の定義であるとすれば、「信用貨幣」というのは黒板上にグリグリとチョークでマークした点のようなものです。 -今日の銀行券も、そして銀行預金も、信用貨幣であり、このタイプの債権型貨幣に属します。 --三角形も四角形も、多角形であるようなものです。 -銀行券を債権型貨幣として捉えればすぐわかるように、銀行券が表しているのは、メディアとしての紙(印刷された紙)の「価値」ではありません。 -債権型貨幣である預金通貨の場合も、預金通帳や磁気媒体というメディアの「価値」でもありません。 -銀行券や銀行預金は銀行の #divregion ''負債'' #enddivregion です。銀行は、この負債'''A'''に対応する''債権''を''資産'' '''B'''として保有しています。 -この債権の背後には、それを支払うための''資産'' '''X'''(たとえばこれから売られる商品在庫 W など)が存在しています。 -つまり、銀行は、返済が確かな優等な債権を多数保有しています。 -この確かさは、返済を可能にする、価値をもった多種多様な商品の存在によるものです。 -このような間接的なつながりによって、一万円札の価値は、さまざまな種類の商品一万円の価値を代表しています。 -さまざまな商品の価値がミックスされた銀行の債権が、銀行の債務である銀行券をバックアップしているのです。 -このように迂回したかたちで、市中銀行の預金も、中央銀行の銀行券も、ある商品に内在している価値を、さまざまな商品の'''合成された価値'''で表示していることになります。 -金貨幣が、そのストック量の大きさによって、価値の安定性を確保していたのに対して、銀行券は債権・債務の迂回路を通じて、多種多様な商品価値を合成し、別の方式で同じ効果を生みだしているのです。 -この意味で、銀行券も、商品の価値をベースにした貨幣、価値にリンクした貨幣、すなわち「商品貨幣」であるということができます。 #enddivregion #divregion(中央銀行券,lec=7,qnum=20,admin) -原理的に説明できる「信用貨幣」は抽象的なものです。いまの日本銀行券は実装方式として特異なズレをもっています。 -金貨本位制度のもとでも、本位貨幣と交換(本位貨幣[正貨]との交換をとくに&color(red){兌換}; convertible という)できる銀行券(兌換銀行券)が発行されていました。この兌換銀行券について、補足的説明をします。 -兌換であれ不換であれ、銀行券はすべて非物品貨幣、すなわち「信用貨幣」です。 -ただ、兌換というかたちで金貨に依存している兌換銀行券は、不換銀行券に比べて信用貨幣としてまだ自立性が弱いということができます。 -その意味で、物品貨幣の典型である金貨幣の対極に位置するのは、信用貨幣の典型としての不換銀行券です。 &br; -ただし、一般にいわれてきたのはこの逆です。 --「理論的に説明できるのは、兌換銀行券までだ」と考えて、 --不換銀行券を国家紙幣と同じカテゴリーに属するものとしてしまう立場が支配的でした。 -そしていまでも、そうです。 --とくに、日本銀行が大量の [[国債>https://www.mof.go.jp/jgbs/reference/appendix/breakdown.pdf]] を保有するようにかわった現在では、 --これを根拠に、日本銀行券の実質的な「国家紙幣化」を主張する立場が強まっています。 -この講義では --「商品貨幣」の定義を明確に与え、 --不換銀行券も(ホントは「も」ではなく「こそ」)、商品価値を表現できるもう一つのタイプの貨幣(債権型。「信用貨幣」とよぶ。ただし「信用」は未定義。)である&br; ことを説明した。 #enddivregion #qanda_set_qst(7,1,0){{ <p><a href="https://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/acmai/release/2020/ac200610.htm/">日本銀行券の発行残高 111,493,605,387,000円</a>を<a href="https://www.stat.go.jp/data/jinsui/new.html">日本の人口を125,900,000人</a>で割ると885572.7195154885、ざっと見積もって国民一人あたりおよそ90枚の一万円札をもっていることになる。4人家族なら360枚となる。テーブルの上に置いたら<a href="https://www.boj.or.jp/announcements/education/oshiete/money/c15.htm/">3.6cmくらい</a>になる。</p> <p>でも、こんなにたくさんの一万円札がいつもおいてある家なんてそんなにない(...と思う。少なくとも私の家には絶対ない。)</p> <p>111兆円を札束にして立てて並べていったら、100万円で約1センチ、一億円で1メートルだから、1110キロメートル、新幹線のレールに沿って東京大阪間を往復しそうだ。こんなにたくさんの現ナマの一万円札、いったい、どこに消えたのか?</p> }} #qanda(7,1) #qanda_scorechart(7,1) #divregion(after,lec=7,qnum=1,admin) -「銀行に預金した」という回答が多かったのですが、これは誤り。 -もう一度、次の問題で考えてみよう。 #enddivregion #qanda_set_qst(7,11,0){{ 次の(A) (B) (C) に適当な用語を <ol> <li>銀行券があまっているからというので、みなさんが全部で10兆円の銀行券を一斉に(A)銀行に預金したとする。</li> <li>この預金は (C)だから、(A)銀行の (C)が10兆円増加し、それに対応する10兆円の銀行券が、さしあたり資産として増加する</li> <li>(A)銀行はどうするか? こんなたくさんの銀行券をもっていても、なんの収益ももたらさない。(A)銀行はこの10兆円をとりあえず発行元である (B)銀行に預金する。</li> <li>その結果、(A)銀行の当座預金が10兆円増加する。</li> <li> (B)銀行の (C)はどうなるか? いま、 (B)銀行の当座預金はいまだいたい400兆円ちょっとだが、これが410兆円にふえる。その分だけ、現在110兆円ちょっとある銀行券の残高が10兆円減るのだ。</li> <li> (B)銀行の (C)である銀行券が110兆円が100兆減り、 (B)銀行が(A)銀行から預かっている400兆円が410兆円に増える。 かたちが変わるだけで、(C)総額としては、プラマイゼロという話になる。</li> <li>要する、「銀行券で預金をする」と銀行券が減っちゃうわけで、現在ある110兆円の銀行券が、どこにあるの? という質問の答えにはならない。</li> </ol> }} #qanda(7,11) #qanda_scorechart(7,11) #divregion(預金通貨,lec=7,qnum=1,admin) -[[市中銀行>https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/abstract/stats/year2_02/account2018_interim/summary.pdf]]表3 の預金も「信用貨幣」(「預金通貨」とよばれている) --預金は銀行の負債 --銀行はこの負債に見合う債権をもっている。 --銀行がもっている債権の背後には、それを支払うにたる「商品」がある。 --その商品には「価値」がある。 --銀行の預金も、商品に値付けをする根拠をもつ。 --つまり、銀行預金も、価値表現における等価物となりうる債権、すなわち「信用貨幣」である。 #enddivregion #divregion(中央銀行、市中銀行、そして財政,lec=7,qnum=1,admin) -まず基本原理をおさえよう。日本銀行券も預金通貨も( )貨幣だ。 -日本銀行は、私たちのもっている銀行券を発行するほかに、 -市中銀行から、預金を受け入れている。 -私たちは、中央銀行に預金することはできないが、 -市中銀行に預金することはできる。 -私たちの市中銀行への預金 ⇄ 市中銀行の日銀への預金 という間接リンクがある。 -ただし、量が一致するわけではない。 -なぜか? 市中銀行の預金総額(正確には負債の総額。これが債権型貨幣の量)は、市中銀行の貸し付け可能額によってきまるから。 -ちょっとむずかしいけど、要するに、預金される貨幣が先にあって、預金額がきまるのではない、ことを理解しよう。 > +市中銀行が、貸してももとが取れそうな相手がいれば、貸し付ける +→貸付額(返済額 マイナスちょっとの)が預金口座に記載される +→必要な購買・支払に「振り込む」 +→いろんな口座の間を預金額が動く。ちょうど日銀券がいろんな人の間で動くように。 +→ そのうち銀行に返済しなくてはならない人の口座に振り込まれると、たぶんその人はその預金で銀行に支払うだろう。これで銀行の貸付債権も預金負債も消える。 < -じゃ、市中銀行が日銀に預金をおくのはなぜ? -それは、私たちがあまった日銀券を銀行に預金するのと同じようなもの(原論では「ようなもの」をいっちゃいけないといったのですが、ここは、理論の例解イラスト挿絵なので、細かいことは描写はかんべん)。自前で貸し付けできる額をこえて、預金が貯まってしまったから。 -私が学生だったころ(50年前)は、だいたいこれでOKだったのですが、いまはちょっと、面倒なものがここに介入。 -国債です。銀行の貸し手(銀行からの借り手)は、かつては企業、その後は私たちも直接間接借りるようになったが、いまでは、政府が大きな相手となっています。 -しかし、銀行は返済可能な相手には貸し付け、信用貨幣がつくられるという原理は同じ。 -いくつか、不正確なところがあるのですが、以上がイラストです。 -このイラストを思い浮かべて、この[[資金循環図>https://www.boj.or.jp/statistics/sj/sjexp.pdf]](図表1)を読んでみよう。 #enddivregion #qanda_set_qst(7,2,0){{ 資金循環図には「国債」という項目はない。 「国債」の総額を含む金額は、何兆円か、探してみよう。 }} #qanda(7,2) #qanda_scorechart(7,2) #divregion(預金通貨から派生した貨幣,lec=7,qnum=2,admin) -銀行預金を基礎に、さまざまな支払のための貨幣が派生する。つまり、銀行預金がなければ、基本的に機能しない性格をもつ。 -インターネットで検索すれば、違いはすぐわかる。 -クレジットカード(銀行預金にたいてい結びつけられているが、そうでないなら、銀行と同じく、債権・債務型の貨幣となるから、等々、細かい話はキリがない)。 -デビットカード(ATMでキャッシュを引きだして支払うのと原理は同じ。すでにある預金による支払)。 -プリペイドカード(キャッシュを引きだしてチャージするようなもの。すでにある預金通貨か日銀券をチャージして支払っているだけ)。 -このような派生物は、情報通信技術の発展など、外的条件(貨幣の原理にとって外的)の変化で、いろいろでてくる。 -一つ一つを、商品貨幣→物品貨幣、商品貨幣→信用貨幣のような「論理密度」で説明することはできない。 -ただ、一つ一つが説明できないということと、いろいろでてくることが説明できない、ということは別である。 #enddivregion #qanda_set_qst(7,3,0){{ <p>「一つ一つが説明できないということと、いろいろでてくることが説明できない、ということは別である。」</p> <p>どういう意味で「別」なのか。貨幣以外の例をあげて解説せよ。</p> }} #qanda(7,3) #qanda_scorechart(7,3) #divregion(解答,lec=7,qnum=3,admin) //#null{{ -虫媒花のかたちを一つ一つ全部説明できるような一般理論はむずかしいが、花の形が多様になる原理は、昆虫の形態の多様化によって説明できる。...昆虫の多様化が先か、花の多様化が先か、これはむずかしい。 -個々の台風の進路が説明できないということは、台風の構造(たとえばコリオの力による風向)が説明できないということとは別である。 //}} #enddivregion *まとめの復習問題 [#kade8b14] 7-4 易 #qanda_set_qst(7,4,0){{ 次の文の(A)から(C)に適当な用語を入れよ。 <p>商品の(A)は、必ず同時に、他の商品を用いて表現される。</p> <p>(A)表現に用いられる商品が(B)である。</p> <p>すべての商品に共通な単一で持続的な(B)が貨幣である。</p> <p>貨幣の量の単位は、重さや長さと同様、法律によって定められている。</p> <p>商品(A)の貨幣量による表現が(C)である。</p> }} #qanda(7,4) #qanda_scorechart(7,4) #divregion(解答,lec=7,qnum=4,admin) #null{{ A : 価値, B:貨幣, C: 価格 }} #enddivregion 7-5 やや難(問題の文意の理解は難) #qanda_set_qst(7,5,0){{ 次の文の(A)から(C)に適当な用語を入れよ。 <p>商品価値の表現に用いることができる貨幣を(A)という。</p> <p>(A)は、「商品価値を表現する能力をもつ」という仕様 スペックによって規定された、抽象的な貨幣の概念である。</p> <p>(A)の仕様を実際に実現する(実装 インストールする)方法は一つではない。</p> <p>一つの実装方法は、特定の商品を等価物する(B)貨幣型である。金貨幣はその典型をなす。</p> <p>もう一つの実装方法は、商品に対する請求権を等価物とする(C)貨幣型である。今日の銀行券はこの型に属する。</p> }} #qanda(7,5) #qanda_scorechart(7,5) #divregion(解答,lec=7,qnum=5,admin) #null{{ A : 商品貨幣, B:物品, C: 信用 }} #enddivregion 7-6 回答 易(問題の文意の理解は超難) #qanda_set_qst(7,6,0){{ 次の文の(A)から(C)に適当な用語を入れよ。 <p>いまの日本における商品貨幣の実装方式は、(A)と(B)である。</p> <p>負債である(A)は、その大半を国債がしめる資産に対応している。</p> <p>国債はただ将来の返済が確実であるというだけではなく、債券として証券市場で安定した価格で売買される商品であり、(A)はこの商品の(C)と結びいている。</p> <p>同じく負債である(B)は、銀行の貸出による債権が中核をなす資産に対応している。</p> <p>銀行が保有する債権は、支払を可能にする資産があり、いま市場で売ればいくらという価格で表現された(C)をもつ。(B)も、やはりこの商品の(C)と結びついている。</p> <p>したがって、(A)も(B)も、商品の(C)を表現するという基本スペックを満たす商品貨幣の実装方式なのである。</p> }} #qanda(7,6) #qanda_scorechart(7,6) #divregion(解答,lec=7,qnum=6,admin) #null{{ A : 日本銀行券, B:預金通貨/市中銀行預金/銀行預金, C: 価値 }} #enddivregion *サプリメント [#r0d5cc1f] #ref(beamer7.pdf) 銀行券はどのようにして増減するのか *サプリメント [#f4a022a0] #ref(beamer7.pdf,,銀行券はどのようにして増減するのか)