#author("2022-01-22T15:04:56+09:00","default:obata","obata") #author("2022-01-22T15:05:58+09:00","default:obata","obata") CENTER:[[前回 ◁ >2021年度/冬学期/第9講]]&color(#447CFF){第 &size(32){10}; 講}; [[▷ 次回>2021年度/冬学期/第11講]] #katex #qanda_setstid(2022-01-13 16:10:00, 90) #qanda_who ------ ✔RECONチェック&br; ✅接続チェック #qanda_set_qst(10,20,0){{ <p>✔接続状態をおしえてください。</p> <p>✔なお、前回学生証番号を登録した人で、今回「氏名不詳」になってしまった人は「再登録」と書いてください。</p> }} #qanda(10,20) ----- CENTER:&size(25){&color(yellow,navy){ 賃金と物価 };}; ----- **今回のネライ [#y311c0c6] -賃金率の実質的変化率には、どのような問題が潜んでいるのか、を理解する。 -指数 インデックスが評価の一種であること、を理解する。 **分配関係の変化 [#v3e6a56f] -分配関係の根本は、はたらいた人たちが、どれだけの生活物資を手にいれられるか、である。 -ただ、生活物資は物量のベクトルだ。 -たしかに、''すべて''の要素が増加すれば、はたらく人たちの生活水準が上昇した、ということはできる。 -しかし、ふえるものもあれば減るものもあるときはどうか?集計問題。 -たとえば $(3,6) \to (6,3)$のときは、ふえたのか減ったのか?という問題。 ---- -この講義では、次の数値例を一貫して使ってきた。この数値例を使ってもう少し突っ込んで考えてみよう。 ****数値例 [#r06c4136] --次の社会的再生産のもとで、 \begin{equation} \begin{cases} (小麦8kg,鉄12kg) + 労働6時間 &\to& 小麦36kg\\[5pt] (小麦16kg,鉄4kg) +労働12時間 &\to& 鉄24kg \end{cases} \end{equation} --つぎのような生活過程が営まれていた。 \begin{equation} (小麦 3kg, 鉄6kg) \to 生活 \to 18時間の労働 \end{equation} --ここから生活物資が次のように変化した。 \begin{equation} (小麦 6kg, 鉄3kg) \to 生活 \to 18時間の労働 \end{equation} --この変化は社会的再生産全体に波及する。その結果、 > +「上乗せ率を等しくする価格」が $(p_1,p_2) \to (p_1',p_2')$ に +均等な上乗せ率が$R \to R'$に +賃金率が$w\to w'$に < 変わる。 #qanda_set_qst(10,1,0){{ <p>次の社会的再生産のもとで、</p> $$ \begin{cases} (小麦8kg,鉄12kg) + 労働6時間 &\to& 小麦36kg\\[5pt] (小麦16kg,鉄4kg) +労働12時間 &\to& 鉄24kg \end{cases} $$ <p>つぎのような生活過程が営まれていた。</p> $$ (小麦 3kg, 鉄6kg) \to 生活 \to 18時間の労働 $$ <p>ここから生活物資が次のように変化した。</p> $$ (小麦 6kg, 鉄3kg) \to 生活 \to 18時間の労働 $$ <p>その結果</p> <ul> <li>「上乗せ率を等しくする価格」が $(p_1,p_2) \to (p_1',p_2')$ に</li> <li>均等な上乗せ率が$R \to R'$に</li> <li>賃金率が$w\to w'$に</li> </ul> <p>に、それぞれ変わった。</p> <hr/> <p>さて、新しい価格 $p_1', p_2'$, $R'$, $w'$ の関係を示す式を立てよ。</p> <p>(回答に$p_1', p_2'$, $R'$, $w'$と書くのが面倒なら、ダッシュを省いてp1,p2,R,wでも可です。)</p> }} #qanda(10,1) #qanda_solution(10,1){{ <h4>解答</h4> \begin{equation} \begin{cases} ((8,12)(p_1',p_2') +6w')(1+R') = 36p_1' \\[5pt] ((16,4)(p_1',p_2') + 12w')(1+R') = 24p_2' \end{cases} \end{equation} \begin{equation}(6,3)(p_1',p_2')=18w'\end{equation} }} #qanda_set_qst(10,2,0){{ <p>次の式を簡単にせよ。</p> $$ \begin{cases} ((8,12)(p_1',p_2') +6w')(1+R') = 36p_1'\\[5pt] ((16,4)(p_1',p_2') + 12w')(1+R') = 24p_2' \end{cases} $$ $$(6,3)(p_1',p_2')=18w'$$ }} #qanda(10,2) #qanda_solution(10,2){{ <h4>解答</h4> \begin{equation} \begin{cases} (10,13)(p_1',p_2')(1+R') = 36p_1'\\ (20,6)(p_1',p_2')(1+R') = 24p_2' \end{cases} \end{equation} }} #divregion(「簡単にせよ」といわれても...,admin,lec=10,qnum=2) -この話は年が明けてからしますが... -「簡単にせよ」といわれても、コンピュータにはこの「簡単に」が「簡単に」はわからない。 -でも、あなたがコンピュータ以上なら、つまり人間なら ,maybe, I hope so,「簡単に」がなにか、なんとなくわかだろう。 -未知数が4つ、方程式が3つ、式の変形はすべて必要十分条件をみたす同値の関係。幾通りも可能。 -コンピュータで、同値の変形をたくさん生みだすプログラムを書くのは比較的簡単。でも、そのなかで「簡単に」に該当するものを決定するプログラムを書くのはずっとむずかしい。「なぜか?」 -「それは人間といえども、"なにが「簡単に」なのか" は、”なんとなく”しかわかっていないから」です。 -”なんとなく”じゃ、プログラムは書けません。プログラムを書くうえでいちばんむずかしいのは、このモヤモヤした何かを、カッチリした境界をもち、真か偽か、判別可能な対象(オブジェクト)として定義することです。 ---- -こういうと、「でも、いまのコンピュータはAIでわかるのじゃない?」という人がたいていでてきます。 -AIがなにか、自分で考えることもなく、かなりおバカなことを信じている人もいるようです。 -AIかどうかはともかく、コンピュータでできるのは、大量のデータから、それらしいものを探すタイプのアプローチです。いろいろ周辺的に別のアプローチもでてきていますが、コアをなすのは、大量の結果→それらしき原因というかたちで、probability を高める方法です。 -この場合なら、いろいろな式の変形をやって、たくさんのケースで「簡単に」なったかどうかをデータととして蓄積し、ある変形が「簡単に」になったかどうか、判定するアプローチです。「簡単になったかどうか」は、「簡単に」がわかる人間が、直接教えるか、プログラムを通じて間接的に学ばせるか、しなくてはなりません。 -コンピュータのアプローチは、あくまで「らしさ」 probablityを高める方法です。maybe.... 一つでも例があれば偽とするような、演繹的な推論ではありません。この意味で、コンピュータは数学ができないのです。コンピュータをつかって、人間が数学を研究することはできますが、人間に変わってコンピュータ自身が数学を研究できるわけではありません。 -「$\pi$は無理数か有理数か?」コンピュータで何時間で何桁まで計算できた、といって性能を競うのですが、何桁まで計算しても、無理数だという証明にはなりません。if.... then で演繹的に証明するべき問題なのです。 -たしかにコンピュータは、真偽で分岐するプログラムでその通りに動きます。しかし、「真偽で動く」ということと、「真偽がわかる」ということは別です。何が泥棒かはわからなくても、命令どおりに、泥棒なら捕まえる、という行動はできます。真偽がわからないので、コンピュータ自身が自分でプログラムを書いて、動くということはありません。 -ということで、人間は、論理的な対象に対しても、コンピュータにはできないアプローチができる、という話しでした。この講義では経済学を通じて、演繹的な推論の力を身につけてもらうのがネライでした。くれぐれも、コピペコピペでコンピュータ以下の知性にならぬように..... -実はこれ、来年話す予定の「労働とは何か」に深く関わっています。ちょっと頭の隅に入れておいてください。 #enddivregion #qanda_set_qst(10,14,0){{ <p>「次の式を簡単にせよ。」の「簡単に」を、プログラムに書けるように「簡単に」説明せよ。</p> <p>(一般に「式を簡単にせよ」と考えるとむずかしくなるので、とりあえず「次の式」にかぎって回答すれば可)。</p> }} #qanda(10,14) #qanda_solution(10,14){{ <h4>解答</h4> <ol> <li>未知数の数と式の数を減らす。</li> <li>どの未知数を消すか、考える。</li> </ol> <h4>解説</h4> <p>1.はだれでも思いつくこと。むずかしいのは2.</p> <p>どの未知数を消すか。これは、何について解くか、という目的からきまる。</p> <p>「簡単にする」という変形の手続きは、方程式を何かついて解くか、という「目的意識」をはなれてはきまりません。</p> <p>人間の労働のコアにあるのは、この「目的意識」です。</p> <p>式をむやみやたらに変形するのではなく、「方程式を解く」という目的から、逆算して変形するのです。</p> <p>そして「解く」という行為は、どの未知数が知りたいのか、という「関心」に依存しているのです。</p> }} #qanda_set_qst(10,3,0){{ \begin{equation} \begin{cases} (10,13)(p_1',p_2')(1+R') = 36p_1'\\ (20,6)(p_1',p_2')(1+R') = 24p_2' \end{cases} \end{equation} <p>価格比$p'=p_1'/p_2'$を求めたい。出発点になる式を示せ。</p> }} #qanda(10,3) #qanda_solution(10,3){{ <h4>解答</h4> \begin{equation} \frac{36p_1'}{(10,13)(p_1',p_2')} = \frac{24p_2'}{(20,6)(p_1',p_2')}\end{equation} <h4>解説</h4> <p>価格比 $p = p_1/p_2$として整理すると</p> \begin{equation} \frac{36p'}{10p'+13} = \frac{24}{20p'+6}\end{equation} <p>解いてみましょう。</p> <p><a href="https://live.sympy.org/">SympyLive</a>にアクセスして、>>> のあとに次の三行をコピペしてみてください。</p> <ol> <li>p = symbols('p')</li> <li>f = 36*p/(10*p+13) - 24/(20*p +6)</li> <li> solve(f,p)</li> </ol> <p>答えは $1/60 \pm \sqrt{1561}/60$</p> <p>$\sqrt{1561} \fallingdotseq 40$ とすれば $p' > 0 $ だから$p' \fallingdotseq 41/60$となる。</p> <p>$p'/p = 41/40$</p> <p>ということは、小麦の価格が鉄に対して2.5パーセントくらい上がれば、両部門のマークアップ率が等しくなるという話。</p> <h4>オマケ</h4> <p>sympyでもう少しチャンと値まで計算したければ...</p> <ol> <li>p = symbols('p') # p をシンボルとして使う</li> <li>g = 36*p/(10*p+13) # 小麦の売値/原価 = 1+R</li> <li>h = 24/(20*p +6) # 鉄の売値/原価 = 1+R</li> <li>f = g - h # g,h,fは g=0,h=0,f=0 という関数</li> <li>solve(f,p) # f を p について解いてみる。解は二つでる。</li> <li>solve(f)[1].evalf() # 解は配列。その2番目を[1]で引きだしてフロートの実数に評価。</li> <li>g.subs(p,solve(f)[1].evalf()) # その値を関数gのpに代入。これで小麦の1+Rがでる。</li> <li>h.subs(p,solve(f)[1].evalf()) # こちらは、鉄の1+R。両者は一致するはず。</li> </ol> \begin{equation} \frac{36 p}{10 p + 13}=\frac{24}{20 p + 6}=1.23056955181661 \end{equation} <p>つまり、上乗せ率が $25\%$から$23\%$に下落しているのがわかる。</p> }} **賃金率の名目の変化と実質の変化 [#a466bf6e] -生活物資が$ (3,6) \to (6,3)$ と変わったとき、賃金率が$ w \to w'$に変わり、「マークアップ率が均等になる価格」が$ (p_1,p_2) \to (p_1',p_2')$に変わったとする。 -賃金所得総額は $ 18w \to 18w'$円になるが、はたしてふえたのだろうか、減ったのだろうか?比率をとってみよう。 \begin{equation} 18w'/18w =\frac{(6,3)(p_1',p_2') }{(3,6)(p_1,p_2)} \end{equation} -ただこれは、異なる価格体系で集計した値を比較した「名目」nominal の変化率。 -この間に価格体系が$ (p_1,p_2) \to (p_1',p_2')$に変わっている。 -複数の価格のセット(集合)を「物価」という。英語でいえば、prices. -$ (p_1,p_2) \to (p_1',p_2')$のとき、 「物価」が上がったのか、下がったのか、を考慮にいれなくてはならない。 -集計する基準(この場合は物価)の変化を割り引いた変化が「実質」real の変化率。 -さて、では、$ (p_1,p_2) \to (p_1',p_2')$ という価格ベクトルの変化はどう比較したらよいか。 #qanda_set_qst(10,4,0){{ <p>二つの価格体系の比較をするには、一つの同じ商品のセットを買うのに必要な金額で比較すればよい。</p> <p>この金額が増大すれば価格水準、すなわち物価が上昇したことになるし、逆なら逆になる。</p> <p>まず、最初の生活物資$(3,6)$を買うのに必要な金額で物価の上昇率を考えてみよう。</p> <p>価格の変化率を表す式を書け。</p> }} #qanda(10,4) #qanda_solution(10,4){{ <h4>解答</h4> \begin{equation} \frac{(p_1',p_2')(3,6)}{(p_1,p_2)(3,6)} \end{equation} }} #qanda_set_qst(10,5,0){{ <p>名目上昇率を物価上昇率で割れば実質上昇率になる。</p> \begin{align} 賃金の名目上昇率: \frac{(p_1',p_2')(6,3) }{(p_1,p_2)(3,6)}\\[20pt] 価格水準の上昇率: \frac{(p_1',p_2')(3,6)}{(p_1,p_2)(3,6)} \end{align} <p>賃金率の実質上昇率を著す式を書け。</p> }} #qanda(10,5) #qanda_solution(10,5){{ <h4>解答</h4> \begin{equation} 賃金の実質上昇率: \frac{(p_1',p_2')(6,3)}{(p_1',p_2')(3,6)} \end{equation} <h4>解説</h4> \begin{equation} \begin{equation*} \frac{(p_1',p_2')(6,3) }{(p_1,p_2)(3,6)} \div \frac{(p_1',p_2')(3,6)}{(p_1,p_2)(3,6)}\\ =\frac{(p_1',p_2')(6,3)}{(p_1',p_2')(3,6)} \end{equation*} \end{equation} <p>なんのことはない、新しい価格体系$(p_1',p_2')$で物量$(6,3),(3,6)$を集計して比較しているだけのことだ。</p> <p>せっかくだから値を計算してみよう。</p> \begin{equation} \frac{(p',1)(6,3)}{(p',1)(3,6)} = \frac{6p'+3}{3p'+6} \\ \fallingdotseq \frac{6\times 41/60 +3}{3\times 41/60 +6} \\ = \frac{142}{161} \\ \fallingdotseq 0.88198758 \end{equation} <p>要するに、実質賃金は約$1-0.882=0.118$ つまり11.8ポイント下落したのだ。</p> }} #qanda_set_qst(10,6,0){{ <p>価格の上昇率を、(3,6)ではなく(6,3) を基準にはかってみよう。</p> \begin{align} \text{賃金の名目上昇率}: \frac{(p_1',p_2')(6,3) }{(p_1,p_2)(3,6)}\\[20pt] \text{価格水準の上昇率}: \frac{(p_1',p_2')(6,3)}{(p_1,p_2)(6,3)} \end{align} <p>このときの賃金率の実質上昇率を表す式を書け。</p> }} #qanda(10,6) #qanda_solution(10,6){{ <h4>解答</h4> \begin{equation} 賃金の実質上昇率: \frac{(p_1,p_2)(6,3)}{(p_1,p_2)(3,6)} \end{equation} <h4>解説</h4> <p>今度は、はじめの価格体系$(p_1,p_2)$で集計して比較するかたちになっている。</p> <p>これもせっかくだから値を計算してみよう。</p> \begin{equation} \frac{(p,1)(6,3)}{(p,1)(3,6)} = \frac{6p+3}{3p+6} \\ =\frac{6\times 2/3 +3}{3\times 2/3 +6} = \frac{7}{8} = 0.875 \end{equation} <p>やはり、実質賃金は12.5ポイント下落している。</p> <p>しかし、下落率はこっちのほうが1ポイント弱大きい。</p> }} #divregion(付録:確かめてみよう,admin,lec=9,qnum=6) -問題10-5,10-6 をGeogebraの数式処理システムCASで確かめてみよう。 -[[ここ>https://www.geogebra.org/classic/p5drs5xg]]にアクセス -やっていることは +表からmatrixを作成 ++$A$:投入マトリックス ++$X$:産出マトリックス ++$W$:総賃金の物量ベクトル ++$w$:賃金率物量ベクトル ++$Aw$:賃金をふくむ拡大された投入マトリックス ++$As$:産出マトリックスが単位行列になるように標準化した「拡大された投入マトリックス」 +CASで数式処理 ++$P$:固有ベクトルを列にもつ行列($P^{-1}AsP$で対角化) ++$v$:このうち第一象限に含まれる固有ベクトル(価格ベクトルになる) +賃金物量の変化 ++$W2$:変化したあとの総賃金の物量ベクトル ++$W2$に対して上の一連の操作を添え字2をつけておこなう。 ++$u2$のところで10-6を解いた数値解がでてくる。 +販売価格/原価が、小麦でも鉄でも$6/5$になっていることを確かめる。 ++小麦の原価は $As(1,0)*v$,販売価格は$v*(1,0)$ ++鉄の原価は $As(0,1)*v$,販売価格は$v*(0,1)$ #enddivregion **指数問題 [#r1e1944c] #qanda_set_qst(10,7,0){{ <p>実質賃金率の増加率(減少率)をより正確に表しているのは、「問題10-5」 の$0.88198758$か、それとも「問題10-6」の$0.875$か。</p> <p>理由を述べよ。</p> }} #qanda(10,7) #qanda_solution(10,7){{ <h4>解答</h4> <p>もちろん「いずれかがより正確」だとはいえない。</p> <p>理由:価格体系の変化はウェート付をして比較する必要があるが、変化前の生活物資の物量を基準にとるか、変化後のそれをとるかに客観的な根拠はないから。</p> <h4>解説</h4> <p>一般論として、複数の要素で構成される「状態」$P$と$P'$を比較するには、それぞれの要素に対応する共通のセット$X$を用いて、$PX/P'X$ のようなかたちで数値化するほかない。この数値に100をかけたものが「指数」。</p> <p>しかし、どのようなウェート付をするかは一義にきまらない。</p> <p>物価ではないが、多数の株式が証券市場で売買される場合の株価の変動も事情は同じ。ダウ平均や日経平均がどんなウェート付で計算されているのか、<a href="https://nikkei225jp.com/nasdaq/">このページ</a>にでてくる「ヒートマップ」(たくさんのタイル貼の長方形?)をみて考えてみよう。</p> <h4>After</h4> <p>さすがに正解はありませんでした。</p> <p>割り切れるからとか、桁数が多いから、というのは問題外として、</p> <p>ともかく「基準」の取り方が問題なのだ、ということに気づき、前であれ、後であれ、それなりの理由を述べたものは1点。</p> }} #qanda_set_qst(10,8,0){{ <p>昨日と今日で次のように持ち株が変化した。</p> \begin{equation}(A社株 @2000円 100株, B社株 @1000円 200株) \to (A社株 @1000円 200株, B社株 @2000円 100株)\end{equation} <p>昨日と今日で持ち株の名目の総額は、40万円で変わらない。でも株価は動いている。</p> <p>さて、昨日と今日を比べて、実質でもうかったのか、損したのか?根拠を述べよ。</p> }} #qanda(10,8) #qanda_solution(10,8){{ <h4>解答</h4> <p>わからない。(「わかりません」という回答はこういうときのためにとっておこう。)</p> <p>株価の変動は、昨日の持ち株を基準に考えるか、今日の持ち株を基準に考えるかで、逆になるから。</p> <h4>解説</h4> <p>昨日の持ち株構成を基準にとれば、株価は</p> \begin{equation}\frac{(1000,2000)(100,200)}{(2000,1000)(100,200)}=\frac{500000}{400000}\end{equation} <p>で25パーセントのアップ。</p> <p>「売らずにもっていればよかった....損しちゃった!?」</p> <p>株価指数が上がっているのに、持ち株の金額が同じ、ということは「実質25パーセント損した」ということ。</p> <p>ところが、今日の持ち株を基準にとれば、株価は</p> \begin{equation}\frac{(1000,2000)(200,100)}{(2000,1000)(200,100)}=\frac{400000}{500000}\end{equation} <p>で20パーセントのダウン。</p> <p>株価指数がさがっているのに、持ち株の金額が同じ、ということは「実質20パーセント得した」ということ。</p> <p>「いまもってる株を、昨日(の株価で)買うには、もっとかかったはず....しめしめ、もうかった!?」</p> <p>欲張りは妄想の元</p> <hr> <p>これは極端な話しですが、「指数」というのは、複数の要素からなる「状態」を、人間がある尺度で「評価」でしたもの。モノの重さや長さのように、対象であるモノに属する客観的な量ではないことに注意しよう。</p> <p>みなさんが気にする「点数」というのも「指数」的なものです。「なんでこの問題が1点満点で、あの問題が3点満点なの?しかも、違う問題の得点がなんで足せるの?」「ウェート付は採点者の叡慮。」「独断でしょう。」</p> <h4>After</h4> <p>「わからない」と「かわらない」は別のこと。</p> <p>「かわらない」という答案は、名目と実質の区別がそもそも「わかっていない」ので0点。</p> <p>ともかく損したか得したかを選び、それなりの理由を述べたものは1点。</p> }} ------ -&color(red){2021-12-23の講義はここまで}; &aname(lecEnd20211223); --「コンピュータと労働」にかかわる10-14は未出題 --9-10 および「今回のネライ」はまだ解説していない。これは全体的なまとめ。 -------- ****補足(お年玉) [#k8d7fa82] [[次の記事>https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220111/k10013424781000.html]]を読んで、つぎの問題に答えてみよう。 #qanda_set_qst(10,15,0){{ <p>「<a href="https://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/tsuki/index-z.html">消費者物価指数</a>なら公式に発表されている。いまさら、物価が上がったかどうか、アンケートをとってもしょうがないじゃないか。日銀はどうかしている。」</p> <p>こんなことをいう人がいたら、あなたはどう答えますか。</p> }} #qanda(10,15) #qanda_solution(10,15){{ <h4>解答</h4> <p>どのような商品をどれだけ消費するかは、人によってまちまちであるため、標準的な人の消費物資を想定して計算した物価指数と、個人の実感の間にはズレがある。</p> <p>価格には上がるものもあればさがるものもある。全体として上がったか、さがったかを一義的にきめることはできない。公表された物価指数を客観的な計測結果のように思って、アンケートなんかナンセンス、と思っているのなら、それはちょっと違うね。何種類もの指数をヒントにしながら、実態をイメージするほかないんだ。</p> <p>とはいえ、アンケートをとって77パーセントの人が....といってみても、この数字の意味もひとによってまたまちまち。意味することころがハッキリにしないものに、余計な経費を支出するのはどうかしている、というのなら、それはそうかもしれない。</p> <h4>解説</h4> <p>指数の話をもう少し...</p> <p>日銀は、景気に関しても、よくなったと思うか、というアンケートをとって指数化して公表している。<a href="https://www.stat-search.boj.or.jp/ssi/cgi-bin/famecgi2?cgi=$graphwnd">日銀短観</a>という。</p> <p>「景気」というのも、じつはいくつかの側面をもった経済 business の状態。これも単一の数量で計測することはできない。</p> <p><a href="misery index>http://www.what-money.net/27hi/hisansisuu.htm">悲惨指数</a>などいうのもある。悲惨という訳は悲惨、困窮度程度の意味でしょう。アバウトな物価指数に、これもまたはかり方次第でいろいろになる失業率を単純に足したもの。とはいえ、こんなことをしてやっと何かが語れるというのは、それだけ対象としている経済なるものが、多面的で複雑だから。</p> <p>物理学なら、質量と速度をたして運動指数なんてヘンテコなものをつくる必要はありません。別々に計測して、$\bm{F}=m\dot{\bm{v} }$という運動方程式で表現するでしょう。経済学は、こうしたいのですが、対象が複雑なうえに、観測者によって違ってみるという厄介な問題あり、物理学の真似しようとして失敗を繰り返してきました。しょうがありませんね。</p> <p>でも、物理的現象でも人間にとってそれがもつ意味を考えようとすると、やはり指数的なものだでてきます。不快指数とか、BMIとか。そして、数値になると、それがあたかも質量や速度と同じ測定値であるかのように、コンマ何パーセントまで意味かのように思えてくる、注意しなくては...</p> <p>学力試験の点数なども、実は指数的なものです。この講義のポイントも...でも、ここを疑うと、子供ころからすり込まれてきた価値観、イデオロギーが揺らぐでしょう。問題点がるのを認識して、必要悪として受け容れるほかない世界で生活してことを自覚しましょう。</p> <p>ということで、気を取りなおして、もう少し、補足問題を考えてみます。</p> <h4>After</h4> <ul> <li>この問題のように、みなさんに文章で答えてもらう場合、どうやって採点しているのか、話しておきます。</li> <li>いまうえの解説で、学力試験の点数は指数的なものだ、といったばかり。考えなければいけないのは、いろいろな要素が含まれている「回答文」をどうやって評価するか、という問題です。採点者が自分の「感じ」をたよりに、アンケートに答えるように、「あっている」「ほぼあっている」「ほぼ間違い」「ペケ」みたいに、3,2,1,0とか、やっているのでは、「成績評価なんか、しょせん、先生が気に入るかどうか、に左右されるのじゃなかい」「不可とっても、しつこく頼めば1、2点くらいまけてくれるかも...」ということになります。</li> <li>こういうことがあるからといって、センター試験のような問題をだしても、本当の意味で、自分で問題を批判(読解・分析・再構成)し、それに基づいて必要にして充分な要素で正解を構成する力はつきません。アイウエオから正答を選ぶようなことを繰り返していると、正解を短時間で選ぶ能力に反比例して、どんどん問題をつくる能力(批判する能力)は低下してゆきます。センター試験のように必ず正答が一つにきまる問題をつくるには、あらゆるケースを考えて、それもダメ、これもダメ、とバグをつぶしてゆく必要があり、すごく手間暇がかかります。これに対して、問題に答える側は、チャンと歩けばぬけられるようにつくられている迷路からでればよいわけで、簡単です。しかし、現実に考えなければならないのは、複雑で捉えようのない現象です。対象は、ぬけられるかどうか、わからない迷路です。いろいろなルートを考えて、まず迷路を迷路として描く能力が必要なのです。この講義でみなさんに強く訴えてきたのは、受験勉強で破壊されたこうした能力をつけてもらうことでした。</li> <li>もう少しつづけます。...なので、本当は文章で答えてもらう問題、答えが一つにならない問題、が必要のですが、問題は、それを本当に採点できるのか、という点です。ここが「それは先生の主観でしょう」ではダメなのです。アンケート調査じゃないので、「みなさんは適切だと思いますか」を「私は違うと思います」で評価しても、思考力はつきません。</li> <li>だったら数学のように真偽がハッキリする問題、数理モデルのような問題に絞ればいいじゃないか、と思うかもしれません。私も可能なところでは、数学的な(というか、簡単に数値で答えが出るような)問題をつくってきました。問題を一人で短期量産するため、バグだらけになってしまいがちですが。みなさんは、この種の問題のほうがどちらかといえば好評なよですが、これは、成績をつける「ための問題」になりがちで、私としては不満がつのるのです。数理モデルも、ある意味で迷路ぬけ、必要なのはその前段階、モヤモヤした現実をどうやって数理モデルにするかです。物理学などではこの手続きがある程度できているのですが、社会現象に対しては簡単にはゆきません。数理モデルにこだわると、逆に数理モデル化しやす現象ばかりに関心が片寄るのです。物理学でうまくいったモデル(にちかいもの)を、複雑な現象に一面だけに当てはまめ、全体がわかったような気にさせるおそれにあります。証券市場を念頭においた完全競争市場とか、ここでやった社会的再生産にもとづく利潤率均等化のモデルとか、そういう「モデルが精巧である」ということと、そういう部分モデルの集合で「複雑な社会現象全体が捉えられる」ということは別の話です。試験の採点の話しから、ダイブ逸れてしまいましたが、要するに、数理モデルをつくって問題をだしてくれれば、チャンとした評価ができるのに...というみなさんの要望に、「はい、そうですね」と簡単には言いがたい理由、少しわかってもらえたでしょうか?</li> </ul> <p>さて、だいぶ回り道をしましたが、この問題のような自然言語の回答の採点です。それが指数的だといったのは、ここが書けていたら何点という得点ベクトル$(p_1,p_2,p_3)$を準備し、これと、できているかどうか、ウェート付をするベクトル$(x_1,x_2,x_3)$との内積$\bf{px}$のようなものを計算しているからです。配点ベクトルの要素は三つとはかぎりませんが、たいていは三つにしています。本問なら、たとえばこんな具合です。</p> <ol> <li>物価指数の性格がこの講義の内容に即して理解できているか。ベクトルの「評価」であり、ウェート付という難題があること。</li> <li>「物価指数が《評価》(の一つ)である」ことと、「物価の騰落には個人差が生じうる」ことが関連づけられているか?</li> <li>問題の対象が、異なる時点での物価 prices の変化であることが理解されているか。「感じるか」に引きずられて、余計なものと比較していないか。所得$Tw$の増減とか、景気の良し悪しとか...</li> </ol> <ul> <li>自分で問題文を《分析》して回答すべきポイントを再構成し、必要不可欠な要素で回答を組み立てないと、いくら分量を書いても、内積値である評価点は高まりません。</li> <li>とはいえ、この問題ではリアリティをもたせるため、「....」という人がいたら、どう対応するか、という出題形式になっている。この点への反応なども、採点に加味することも考えられる。しかし、ここではこれは、回答を誘発するためのオマケとみて無視。そのほかにも、得点ポイントの設定はいろいろ考えられるが、これはここでは話しの流れのなかで、私が大事だと考えるものに絞った。</li> <li>要するに、全体をよんだ「感じ」で「まーまー」とか評価しているのではない。ちゃんと$p,x$をそれぞれ分析して内積でスカラー化しているのです。ただ、繰り返しますが、物価の場合と同じで、$p$や$x$を客観的に分析しても、いろいろな要素をどうまとめて点数にするか、には一義的な基準はでてこないです。</li> <li>さらに、別の問題の得点を合算するについては、もう一段上位の多値性が存在します。私はけっしていい加減に間隔で採点はしません。でも採点は原理的な無理を含んでいます。みなさんには、むしろこの無理を理解したうえで、できるだけ<strong>「問題を批判(読解・分析・再構成)し、それに基づいて必要にして充分な要素で正解を構成する力」</strong>をつけてほしいと願っています。これが<strong>「自分で問題をつくる(構成する)力」</strong>につながります。</li> </ul> }} **分配率をはかる [#ue03ee69] -「純生産物」の何パーセントをはたらく人たちが「生活物資」として手にするかを「分配率」とよぶ。 -ただ純生産物も生活物資も、モノを要素とするベクトルであり、直接に一通りの割合として示すことはできない。一定の尺度で集計してスカラー値で比較するほかない。 -この講義ではこの尺度として次の二つを取りあげた。 +生産に直接間接に必要な労働時間$(t_1,t_2,\cdots)$ +上乗せ率を均等にする価格$(p_1,p_2,\cdots)$ -両方とも「社会的再生産」と「生活過程」できまる。 -この講義では次のような数値例を使って説明してきた。 \begin{equation} \begin{cases} (8,12) + 6 \to (36,0)\\ (16,4) + 12 \to (0,24) \end{cases} \end{equation} という社会的再生産のもとで、生活過程が次のように変わった。 \begin{equation} [(3,6) \to Lives \to 18]\\ \mapsto [(6,3) \to Lives \to 18] \end{equation} #qanda_set_qst(10,9,0){{ <p>「生産に直接間接に必要な労働時間を尺度にすれば、分配率は一義的にきまる。」</p> <p> 真か偽か。 この命題の真偽を判断するときポイントはなにか?どうしてか?</p> }} #qanda(10,9) #qanda_solution(10,9){{ <h4>解答</h4> <p>真</p> <p>技術と分配の影響力の違い。</p> <p>モノを生産するのに何時間かかるかは、生産したモノをどう分配しようと変わらない。</p> <p>「生産に直接間接に必要な労働時間」は技術のみによってきまり、純生産物の分配関係から影響をうけないから。</p> <h4>解説</h4> <p>生産に直接間接に必要な労働時間を$(t_1,t_2)$とする。$(t_1,t_2)$は \begin{equation} \begin{cases} (8,12)(t_1,t_2) + 6 \to (36,0)(t_1,t_2)\\ (16,4)(t_1,t_2) + 12 \to (0,24)(t_1,t_2) \end{cases} \end{equation} できまる。</p> <p>分配率$(3,6)(t_1,t_2)/18$や$(6,3)(t_1,t_2)/18$は、この結果を受けて、一義にきまる。</p> }} #qanda_set_qst(10,10,0){{ <p>生活物資が$(3,6)\to(6,3)$に変わり、価格が$(2,3) \to(p_1',p_2')$に変わった。</p> <p>このとき$(3,6)$を基準にとっても$(6,3)$を基準にとっても、物価指数は110に上昇した。</p> <p>$(p_1',p_2')$は?</p> }} #qanda(10,10) #qanda_solution(10,10){{ <h4>解答</h4> <p>$(2.2,3.3)$</p> <h4>解説</h4> \begin{align} \frac{(2.2,3.3)(3,6)}{(2,3)(3,6)} &=& \frac{1.1(2,3)(3,6)}{(2,3)(3,6)} =1.1\\ \frac{(2.2,3.3)(6,3)}{(2,3)(6,3)} &=& \frac{1.1(2,3)(6,3)}{(2,3)(6,3)} =1.1 \end{align} <ul> <li>相対比率が変わらずにすべての価格があがれば、どうウェート付をしようと、物価指数は同率で上がります。</li> <li>物価が上がる、インフレだ、というときには、だいたいこのような一様な価格上昇をイメージしていることが多いようです。</li> <li>貨幣の量が増えると、それに比例して物価は上昇するという貨幣数量説もそうです。</li> <li>総供給より総需要が増えると、物価が上昇すると考えるマクロ経済学も同じです。</li> <li>しかし、個別の価格の決定原理を飛び越して、いきなり「総供給」「総需要」という概念をもちだし、それで「物価」$\bar{p}$を説明することは本末転倒。</li> <li>$(p_1,p_2,\cdots) \to \bar{p}$ であって、独立に単一の$\bar{p}$が変化するわけではありません。</li> <li>その意味で「集計問題」を棚上げにして「総」量を論じる現在のマクロ理論は非常にウィークな理論です。</li> </ul> }} #qanda_set_qst(10,11,0){{ 「賃金率が10パーセント上昇すれば、原価も10パーセント上昇し、「上乗せ率を均等にする価格」も10パーセント上昇する。すべて10パーセント上昇するのだから、「上乗せ率」も「上乗せ率を均等にする価格」の間の比率もなにも変わらない。」 この命題の真偽を述べ、理由を簡明に説明せよ。</p> }} #qanda(10,11) #qanda_solution(10,11){{ <h4>解答</h4> <p>偽</p> <ul> <li>「賃金率$w$が10パーセント上昇すれば、原価も10パーセント上昇し」というのは、原価がすべて賃金コストだけで成りたっているという誤った想定による。</li> </ul> <h4>解説</h4> <ul> <li>原価を構成するのは賃金率だけでなく原材料費もそこには含まれる。賃金率の上昇は、相対的に賃金コストの割合が高い生産物の原価に強く影響する。だから、その価格が相対的に高まらないと利潤率は均等にならない。つまり、賃金の比重の違いが$p_1/p_2$ の比率の第一次の変化を引きおこし、さらにこの変化は二次三次と原材料のコストに波及し$p_1/p_2$ の比率を変えることになる。</li> <li>要するに、この命題は賃金率の引き上げは名目でしか実現できない、といっていることになります。$w$を引き上げても、それに比例して$p_1$と$p_2$が上昇する。つまり、賃金で買える小麦や鉄の量、つまり実質賃金率$w/p_1$や$w/p_2$は変わらない、といっているわけです。</li> <li>しかし、「賃金率$w$が10パーセント上昇すれば」というのは、もちろん「実質賃金率」の上昇のことです。</li> </ul> }} #divregion(実質賃金率があがると...,admin,lec=10,qnum=11) -実質賃金率というのは、1時間の労働でどれだけの物量が買えるか、を示す値、つまり、たとえば$w/p_1,w/p_2,\cdots$などがそれにあたる。 -その逆数なら、実はもう知っているはず。 --「$p_1/w,p_2/w,\cdots$は?」 --「その物量1単位を買うには何時間はたらく必要があるかを示す、労働時間でしょう。」 --「なるほど、その逆数が実質賃金率か。」 --「でも、これだといろいろな実質賃金率があることになる。」 --「じゃ、どういうとき、実質賃金率が上昇したといえるの?」 --「平均が上がれば...」 --「...って、何でも平均病が、泥沼にはまるの、もう、みてきはず。」 --「$w/p_1,w/p_2,\cdots$のうち、どれか一つだけが増加し他は一定なら、少なくとも、実質賃金率が上昇した、といってよいのでは....」 -ということで、これまで使ってきた小麦と鉄の数値例で、基本原理を考えてみよう。 \begin{equation} \begin{cases} (8,12) + 6 \to (36,0)\,\cdots\cdots 小麦\\ (16,4) + 12 \to (0,24)\,\cdots\cdots 鉄 \end{cases} \end{equation} -均等な上乗せ率とそれを実現する価格が次の式で決まるのだった。 \begin{equation} \begin{cases} ( (8,12)(p_1,p_2) + 6w)(1+R) = 36p_1\\ ( (16,4)(p_1,p_2) + 12w)(1+R) = 24p_2 \end{cases} \end{equation} -両辺を$p_1, p_2$で割って整理するとつぎのようになる。 \begin{align} ((8+12p_2/p_1) + 6w/p_1)(1+R) = 36\tag{P}\\ ((16p_1/p_2 + 4) + 12w/p_2)(1+R) = 24\tag{Q} \end{align} #enddivregion #qanda_set_qst(10,12,0){{ <p>次の文章の【A】から【C】に、「上がる」か「さがる」を入れよ。</p> <hr> <p>これまで使ってきた次の小麦と鉄の数値例をもう一度かくとこうなる。</p> <hr> \begin{equation} \begin{cases} (8,12) + 6 \to (36,0)\,\cdots\cdots 小麦\\ (16,4) + 12 \to (0,24)\,\cdots\cdots 鉄 \end{cases} \end{equation} <p>では、均等な上乗せ率とそれを実現する価格が次の式で決まるのだった。</p> \begin{equation} \begin{cases} ( (8,12)(p_1,p_2) + 6w)(1+R) = 36p_1\\ ( (16,4)(p_1,p_2) + 12w)(1+R) = 24p_2 \end{cases} \end{equation} <p>両辺を$p_1, p_2$で割って整理するとつぎのようになる。</p> \begin{align} ((8+12p_2/p_1) + 6w/p_1)(1+R) = 36\tag{P}\\ ((16p_1/p_2 + 4) + 12w/p_2)(1+R) = 24\tag{Q} \end{align} <hr> <p>さて、いま$w/p_1$が一定で、$w/p_2$だけが上がったとする。つまり鉄を基準にしてみた実質賃金率$w/p_2$が上がったということだ。二つのプロセスにわけて考えてみよう。</p> <ol> <li>$w/p_2$が増加したとき、上乗せ率$R$が変わらないなら、(Q)式の等号が維持されるには、$p_1/p_2$が【A】必要がある。</li> <li>このことは(P)式に影響する。$w/p_1$が一定と仮定しているのだから、$p_1/p_2$が【A】とすれば、(P)の等式が成りたつには、$R$が【B】ほかない。</li> <li>競争の力で$R$は均等になるので、鉄の生産で$R$が【B】ならば、小麦の生産の$R$も【B】必要がる。</li> <li>小麦の生産で$R$が【B】なら、上のプロセス1.で、$p_1/p_2$が【A】程度は過大だったことになり、反対の方向に戻す必要がある。</li> <li>となると、プロセス2.で$R$も反対方向に戻す必要がある。</li> <li>それはまた、まわり廻って、プロセス1.での$p_1/p_2$の修正につながる。</li> <li>このような修正のループを回ってゆくうちに、修正の程度は縮小しやがて修正の必要がなくなる。</li> </ol> <p>以上が$w/p_2$だけが上がったときの効果である。</p> <p>$w/p_1$が上がったときの効果も、同様のプロセスで考えることができる。</p> <p>そして$w/p_1$と$w/p_2$が両方上がれば、それぞれの合成となる。</p> <p>要するに、実質賃金率が上昇すれば、価格比が変化するなかで、上乗せ率は必ず【C】のである。</p> }} #qanda(10,12) #qanda_solution(10,12){{ <h4>解答</h4> <p>【A】さがる【B】さがる【C】さがる</p> }} #qanda_scorechart #qanda_scorechart(10,12) #qanda_set_qst(10,13,0){{ <p>問題12の修正プロセスの説明(以下の1.〜7.には根本的な難点、欠陥がある。どこに問題があるのか?</p> <hr> <ol> <li>$w/p_2$が増加したとき、上乗せ率$R$が変わらないなら、(Q)式の等号が維持されるには、$p_1/p_2$が【A】必要がある。</li> <li>このことは(P)式に影響する。$w/p_1$が一定と仮定しているのだから、$p_1/p_2$が【A】とすれば、(P)の等式が成りたつには、$R$が【B】ほかない。</li> <li>競争の力で$R$は均等になるので、鉄の生産で$R$が【B】ならば、小麦の生産の$R$も【B】必要がる。</li> <li>小麦の生産で$R$が【B】なら、上のプロセス1.で、$p_1/p_2$が【A】程度は過大だったことになり、反対の方向に戻す必要がある。</li> <li>となると、プロセス2.で$R$も反対方向に戻す必要がある。</li> <li>それはまた、まわり廻って、プロセス1.での$p_1/p_2$の修正につながる。</li> <li>このような修正のループを回ってゆくうちに、修正の程度は縮小しやがて修正の必要がなくなる。</li> </ol> <hr> }} #qanda(10,13) #qanda_solution(10,13){{ <h4>解答</h4> <p>7のように必ず、「修正のループを回ってゆくうちに、修正の程度は縮小しやがて修正の必要がなくなる」という保証はない。</p> <h4>解説</h4> <ul> <li>4で「程度は過大だったことになり、反対の方向に戻す」というが、戻す程度が大きすぎることも可能性としては排除できない。ここには鉄を売る主体の判断が介与する。</li> <li>相手の反応をみて、自分の対応を調整するプロセスでは、過大な評価、予想によって、同じようなユレを繰り返したり、場合によっては修正の幅が広がることもありうる。</li> <li>繰り返せば「均衡」する点にゆきつく、というのは、経済学の"お伽噺”。</li> <li>そして経済学者は、このお伽噺を「理論」として、ホントらしく見せかけるのを商売にしている。</li> <li>価格の調整作用を通じて、市場はものごとをうまく処理できるのだ、というイデオロギーの合理化、市場礼賛には、充分に気をつけよう。</li> <li>「経済学を学ぶのは、経済学者にだまされないようになるためだ」といった経済学者がいた。なるほど。ただこれをいったのが経済学者なので??ラッセルのパラドックスみたいな話になってしまいそう。それはともかく....</li> <li>みなさんに、自分のアタマで考える力を身につけてもらうことが、この講義の目的でした。</li> <li>もうすぐこの講義も終わります。10-12のような問題にただ回答するのではなく、問題自身を批判的に吟味するところまで、ぜひパワーアップしてください。</li> </ul> }}