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概要
①商品の特性を分析することにより、そのなかから、②貨幣の本質を明らかにすることが今回の目標です。
今回はかなり抽象的で、たぶんむずかしい話をします。むずかしいといっても、考え方がちょっと馴染みにくいというだけです。すでに「知っている」と思っている用語を、厳密に定義しようとすると直面する困難です。ユークリッドの幾何学原理の公理や、ニュートン力学の質点の定義とか、思い浮かべてみてください。
商品とは
- 商品とは
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- 特殊な「財」:財は役に立つという性質、つまり「使用価値」をもつが...
- その使用価値が、自分には役に立たないが、だれか他の人の役には立つという状態、つまり「他人のための使用価値」になりきったものが「商品」です。
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- 商品の使用価値は
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- 「他人のための使用価値」。これは自分には役に立たないというネガティブな言い方です。
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- 商品を所有することは、持ち主にとってどんなメリットがあるのか?ポジティブにいうと、自分にとっては....?
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- 自分にとって役に立つ別の商品と「交換できる」=交換可能性をもっている。
- この交換可能性を「価値」とよぶ。
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- まとめると、商品には二つの相反する属性がある。「商品の二要因」すなわち
である。
- 原理論の出発点になるのは、「純粋な商品」
- 商店の棚に並んだ商品をイメージしよう。
- 自分の身に周りのモノについて考えてみよう。
- フリーマーケットは?インターネットオークションは?....
- とはいえ、ほとんどのモノは大量生産された生産物。
商品からみた貨幣
価値と価格
- この二つの言葉はだれでも知っている。
- 英語でも value and price と区別。
- 日本語でも昔から「ねうち」と「ねだん」は別。「これがこの値段ならお値打ちだ」とかいう。
- では、価値と価格の関係は?
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商品には価値がある。この価値は価格とは違う。価格は何かに「付ける」もの、「付けられる」何かが価値だ。別にむずかしい話ではない。ところが、「価値があるというけれど、そんなもの、どこにあるのだ」ときかれるとちょっと困る。価格な
ら目にみえるが、価値となると、だれもじかにみることはできない。だから価格を付けるわけで、できれば、わざわざ値付けをしたりはしない。だから、何かしら、価値のようなものはありそうだ。でも、ありそうなものをちゃんと説明しようとすると途端にむずかしい問題になる。
この厄介な問題を追求してゆくと、やがて貨幣が実在する市場のすがたが浮かびあがってくる。そしてさらに進めば、資本の運動もちょっと見えてくる。しかし、このような基礎の基礎を明かすことは容易ではない。そもそもどう考えたらよいのか、それがわからないのである。(『価値論批判』2013年弘文堂)
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そもそも表現とは
- 一般に、表現とはどういうことをいうのか。
- 目に見えるものと見えないもの:「知覚」perception:五感 five senses でわかるもの:狭い意味で「存在」するもの
- 目に見えないけれど、存在するもの。
- 表現とは....
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- 直接知覚できないモノXを知覚できるモノaで示すこと
- Xはaに「等しい」ということ。
- X = a とかいても、この = は same ではない。
- 「同じ」は表現ではない。表現は、見た目は「違う」モノが「等しい」のです。????
- 教科書32頁問題13
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価値を表現するとは
- 価値を表現するとは
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- 目に見えない「交換できるという性質」を、目に見える別の商品の「物量」で表現すること。
- 性質の量化。交換できるという性質に対して、その性質の程度を交換される相手の物量で示す。
- 具体的には商品に価格をつけること。価格表現の材料になるのは、特定の商品の物量。
- リンネル20ヤール = 1着の上着(リンネル20ヤールは1着の上着に等しい)というこの形式は、リンネル20ヤールの「価値」の「上着価格」です。この上着が金なら「金価格」、さらに「貨幣」なら「貨幣価格」となる。
- すでに貨幣が存在する世界では、ふつう「価格」といえば「貨幣価格」を含意し、それ以外の上着価格、茶価格、鉄価格等という言い方はしないですが。
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- 「価値表現」には一般の「表現」にはみられない特徴がある。これは決定的に重要!!
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- リンネルの価値表現は、上着の価値表現に非ず
- 非可換性:
- 「リンネル20ヤール = 1着の上着」だからといって 「1着の上着=リンネル20ヤール」とはかぎらない。
- 貨幣を用いた市場の特徴を理解するための基礎の基礎
- ①価値の表現は、非可換で方向性があること。②商品売買は財の交換とは異なること。
- ① → ② の関連についていまちょっと自分で想像してみてください。なにか関係がありそうだけど、明示的に説明するのは、いまはまだ、むずかしいでしょう。あと二、三回先まできけば、たぶん、ハッキリするでしょう。
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貨幣とは
価値表現の進化
- 価値表現のプリミティブなすがた
- ある商品の価値の大きさは、任意の商品の物量で表現される。
- 表現に用いられるモノを「等価物」equivalent という。
- リンネル20ヤール = 1着の上着
- 商品の価値表現のすがた(現象形態:表現様式)の完成したすがた
- リンネル1ヤール = 3シリング
- ミルク1パック(1000ml) = 168円
- 価値表現のプリミティブなかたちから完成態までを、「論理」でつなぐ手続きは「価値形態論」とよばれてきました。
- この講義ではこの「価値形態論」の内容(教科書には踏みこまないで、結論だけにします。
- 結論:多種多様な「商品」が、大量に存在する環境があると、それらの商品の価値を統一的に表現する商品が登場する。
- 価値形態論を通じて規定できる貨幣が「商品貨幣」です。定義の仕方がちょっとヘンですが...
- 価値形態論が価値表現の様式を解明する理論だとすれば、それによって説明される商品貨幣とは、けっきょく、なによりもまず...
に用いられるものが貨幣ということになります。ちょっと教科書とはズレた定義になりますが...
一般的等価物
- 多種多様な商品がその価値を表現する場では
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- それ自体が、直接・間接に商品価値を「もつ」等価物
- 等価物の統一(単一の価格単位)
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が必須
- すべての商品に共通な単一の等価物:一般的等価物
- これが時間を通じて固定されると、貨幣となる。貨幣とは異時点間で共通な、通時的な性質もった、一般的等価物です。
配付資料
問題
講義のときに余談として話したことです。たとえば「商品とは何か?」と質問して、「他人のための使用価値をもった財である」と答えるような問題は、「他人のための使用価値」というタームの意味がわからなくても答えられる。これでは「芸」のない、ただの暗記問題になってしまう。タームの中身がわからないと解けないような問題をだすように、期末の試験の時には工夫します、という話をして、その例に挙げたのですが、たとえばこんなタイプの問題でした。
次の文のうち、誤っているものを選び、理由を述べよ。
- ...
- ネットオークションにかけられるものは商品であり、その売り手は商人、つまり資本家である。
+
| | ... |
- 誤り。
- ネットオークションにかけられた商品は完全な商品ではなく、その売り手も資本家とはいえない。資本家ははじめから売るために買うのであり、自分で使うために買ったネットオークションの売り手とは動機が異なる。
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- ...
みなさんも、講義を聴きながら、なにかよい問題はないか、考えてみてください。よい問題=「質問」を送ってくれた人には加点します。