経済理論学会の第71回大会(東北学院大学) 2023年11月4日 で以下の報告をします。
「貨幣の変容と多態化」(最新版)
報告スライド
岩田佳久さんのコメント
小幡のリプライ
概要
本報告の目的は、マルクス経済学の基礎理論を、「コア原論」「変容論」「多態化論」の三つのレイヤーに構造化する方法(三層構造論)を、貨幣論に即して解説することにあ
る。このうち「コア原論→変容論」に関しては、拙稿「貨幣変容の構造論」(『季刊経済理論』60-1, 2023 年 4 月)で詳述したので、今回はそこで充分に述べることができなかった
「変容論→多態化論」を中心に考察する。
Ⅰ.「コア原論」では、前掲拙稿における「商品貨幣」の生成に関して重要なポイントを列記したあと、商品貨幣が果たす諸機能をコア原論に合わせてさらに一段抽象度を高めて規定する。この抽象化は後の「多態化論」の伏線として不可欠となる。
Ⅱ.「変容」では、従来の「変容」概念を再検討し、その分岐構造がもつべき特性を明らかにする。変容は分岐であり、その分岐構造はコア原論によって方向づけられている。その結果、変容の各分肢は互いに重複するところがない地点まで理論的に絞り込まれる必要がある。貨幣の変容ではさらに、「物品型」「債権型」という二つの分肢は、重複排除性だけではなく併存不可能性という特性をもつ。したがって、貨幣の変容では二択が許されず、一方をとれば他方が消える一択となることを明らかにする。
Ⅲ.「多態化」では、コア原論の「商品貨幣」は変容の二つの型のいずれかをへて、最後に操作可能なかたちで実装される。多態化というのは、この実装における機能分化である。
その際、コア原論→変容論→多態化論の系譜で、「商品貨幣」を直接継承する「中心貨
幣」が一つ存在し、この貨幣が「価値表現」という基本属性を占有したまま、商品対する貨幣の諸機能が外的条件に応じて分化し、さまざまな「派生貨幣」が生まれる。この意味で「多態化」は、さまざまなタイプの貨幣が併存するという単なる「多様化」に還元できない構造(コア原論の商品貨幣と準同形な構造)をもつ。最後に、既存の純粋資本主義を基準にした「段階論」の限界を指摘し、「歴史的発展」を理論的に考える新たなアプローチとして三層構造論がもつ可能性を展望してみる。