#author("2021-01-05T16:15:52+09:00","default:obata","obata") #author("2021-01-05T16:17:16+09:00","default:obata","obata") CENTER:[[前回 ◁ >2020年度/冬学期/第1講]]&color(#447CFF){第 &size(32){2}; 講}; [[▷ 次回>2020年度/冬学期/第3講]] ---- #qanda_mathjax #qanda_setstid(2020-09-24 16:10:00,90) #qanda_who #qanda_points_chart ----- CENTER:&size(20){&color(navy){ 生産と労働(1)};}; &size(25){&color(yellow,navy){ 生産 };}; -------- -「生産」という言葉も「労働」という言葉も、だれでもみんな知っているハズ。 -でも、紛れなくちゃんと定義しようとするとけっこうムズかしい。 #qanda_set_qst(2,21,0){{ <p>生産と労働の関係を簡単に説明してください。</p> }} #qanda(2,21) #qanda_solution(2,21){{ この問題は準備体操のようなものです。20番以降の問題は採点しません。 }} #divregion(活きたことばの世界に...., lec=2 , qnum=21 ,admin) -この言葉は、いくつかの要素をその内部にかかえている。それらの結びつきかたや、ポイントの置き方で、違った&ruby(ニュアンス){意味合い};を &qanda_tooltip(もってきます。){丹沢山系の大山は、江ノ島からみると三角定規の二等辺三角形の整ったすがたをしていますが、成城あたりからみると直角三角形の長辺を下にして立てたようなかたちにみえます。たいていの山はみな、みる方角によっていろいろに、そのすがたを変えるものです。たとえばの話ですが....}; -一般に日常つかうことば(自然言語)は、中心のまわりにいろいろな拡張子をもっていて、これを自由に操ることで、複雑な出来事を語ることができるようになっています。 -これは大事な機能です。比喩なんかもこの機能があるからできるのです。&qanda_tooltip(盆のような月){月並みな比喩です。あしからず...};なんて... -経済学も含めて、社会現象を考察するには、こうした自然言語の柔軟性を活かして、人々が「語っている」ことをしっかり観察し、これを対象化して分析することが重要です。 -いきなりカチガチの定義を与えて、数理モデルにしてしまうのは、人間がそのなかで活きて語っている社会現象を理解する方法としては、不適切です。 -自然科学、あるいは工学で開発されたモデルを外からもってきて、人間社会の考察に機械的に当てはめる方法には大きな限界があります。 -しかし、20世紀の経済学の主流は、だいたいこのやり方にしたがってきました。&qanda_tooltip(広い意味の「社会工学」です){なにせ戦後のUSAの経済理論研究のセンターの一つは、マサチューセッツ工科大学だったのですから...};。 -いまでもこの流れは変わりませんが、これでやればやるほど、経済現象のうち、外付けの数理モデル化しやすい局所だけが肥大化し、全体のすがたをゆがめるばかりです。 -自然言語で語られる世界にたちもどり、人々のことばの用い方を分析することで、活きた経済社会の全体''構造''を再構築する新しい方法が、いま必要なのです。 -というわけで、「生産」や「労働」ということばにもういちど目を向けてみようというのが、今回のネライです。 -とはいえ、客観的で学問的な議論をする場に、ナマの自然言語の柔軟性をもちこむのは混乱のもと。 -必要なのは、人々が語る自然言語の多義性、拡張性を客観的に分析し、&qanda_tooltip(その構成要素とそのはたらきを明確にする,width=400){最近のプログラム言語では、対象の諸要素とそのはたらきをひとまとめにしたデータを扱えるようになっているようです。属性とメソッドで構成されるオブジェクトです。&br;class students{&br; id,&br; name,&br; register(id,name)&br;}&br;みたいな感じで。};ことです。 -では、自然言語を分析しながら、しかし、厳密で紛れのない定義を組み立てるにはどうしたらよいのか。 #enddivregion #qanda_set_qst(2,1,0){{ <p>「生」の反対は「死」、「死」の反対は「生」、生きているのかいないのか、「命」があるかどうかで分けられます。そして、死んだ者は生き返らない、永遠に....</p> <p>では「生産」の反対はXである。Xの反対は「生産」である、というとき、X に当たる言葉は何か?</p> }} #qanda_solution(2,1){{ <p>解答:消費</p> }} #qanda(2,1) #qanda_set_qst(2,2,0){{ <p>Aの反対がB、Bの反対がAというように、元に戻るのはなぜか。</p> <p>こうなるための条件を二つあげよ。</p> }} #qanda_solution(2,2){{ <p>解答</p> <ol> <li>A、B 二つで全部になる</li> <li>二つが重ならない</li> </ol> <p>解説</p> <p>アタリマエのことなんですが、むずかしかったかも。</p> <p>このように反対の反対で元に戻るセットを「対」とよびます。</p> <p>生産は消費という対概念を持ちます。紛れのない定義を与えるとき、重なるところがなく、二つで全体をなす対概念は効果的です。</p> <p>犯人か否か、白か黒か!でも、たいていは、間にグレーゾーンがあるもの。</p> <p>だから、明確な定義を与えるために大事なのは、グレーゾーンを徹底的に狭めることです。</p> <p>どうしたらよいか?...共通の物さし、判別の指標をハッキリさせることです。</p> }} #qanda(2,2) #divregion(ブレない概念の作り方,admin,lec=2,qnum=2) -一つの方法は、否定の否定で完全に元に戻るような「対」概念をとくること -''否定形''が上手に使えるようになると、論理が格段にクリアになります。 #qanda_raw{{ <div id="ben-diagram"></div> <script src="https://unpkg.com/konva@7.0.7/konva.min.js"></script> <script src="./js/konva/coordinate.js"></script> <script src="./js/konva/2020/ben-diagram.js"></script> }} #qanda_konva(width=400,height=200){{ var width = window.innerWidth; var height = window.innerHeight; var stage = new Konva.Stage({ container: 'container', width: width, height: height, }); var layer = new Konva.Layer(); var group1 = new Konva.Group({ draggable: true, }); var group2 = new Konva.Group({ draggable: true, }); var gap = 100; var sep = 80; var circle1 = new Konva.Circle({ x: stage.width() / 2 + gap, y: stage.height() / 2, radius: 70, fill: 'black', stroke: '#aaa', strokeWidth: 4, <!-- draggable: true, --> opacity: 0.6, }); var circle2 = new Konva.Circle({ x: stage.width() / 2 -gap, y: stage.height() / 2, radius: 70, fill: 'white', stroke: '#aaa', strokeWidth: 4, <!-- draggable: true, --> opacity: 0.6, }); var text1 = new Konva.Text({ x: stage.width() / 2 + gap -30, y: stage.height() / 2 + sep, text: '消費', fontSize: 20, fontFamily: 'Calibri', fill: 'black', }); var text2 = new Konva.Text({ x: stage.width() / 2 - gap - 30, y: stage.height() / 2 + sep, text: '生産', fontSize: 20, fontFamily: 'Calibri', fill: 'black', }); group1.add(circle1); group2.add(circle2); group1.add(text1); group2.add(text2); // add the shape to the layer layer.add(group1); layer.add(group2); // add the layer to the stage stage.add(layer); }} #enddivregion #qanda_set_qst(2,3,0){{ <p>生産と消費を分ける<span class="tooltip">指標<span class="dscp"><span class="text">「共通の物さし」のことです。</span></span></span>はなにか?</p> }} #qanda_solution(2,3){{ <p>解答</p> <p>量の増減</p> <p>解説</p> <p>モノの量が増えるとき「生産」とよび、減るとき「消費」とよぶ。減りもふえもしない、つまり「同じ」というグレーゾーンは<span class="tooltip">限りなくゼロに近づけることができます<span class="dscp"><span class="text">つまり、境界線を長さだけあって幅のない幾何学上の「線」にするようなもの。もちろん、これは極端な話、そんな線は知覚できる世界には実在しないのですが。</span></span></span>。</p> <p> では「量」というのは?....とにかく<span class="tooltip">「量る」ことできるもの<span class="dscp"><span class="text">夏学期にカタカナで「モノ」と呼んできたアレです。</span></span></span>。</p> <p>「生産」という言葉は、いろいろな広がりをもつのですが、この講義では「生産」対「消費」というときの「生産」をコア定義とします。</p> <p>繰り返しいっておきます、これは、もっとも狭く定義した「生産」の定義です。次回に「労働」との結びつきで、広がってしまう話をやります。しかし、この講義では、この広がったものを、<span class="tooltip">広義の<span class="dscp"><span class="text">世の中、「広義の....」を連発なさる大先生は多いもの。でも、すぐに「広義の...」と口走るようでは原論失格!厳密な話をした後で、それが現実に当てはならなくなると、「それは広義の...なんだよ」と逃げるわけです。一見深遠な理論にみえるけど、これでは厳密な推論はできなくなります。「広義の直線」とか「広義のゼロ」とか、もちだしたら数学だってメチャクチャになってしまうでしょう。</span></span></span>生産などとアヤフヤにすることはしません。</p> }} #qanda(2,3) #divregion(生産の簡単な定義,lec=2,qnum=3,admin) -モノの量がふえることを生産とよぶ。 #enddivregion ------ #divregion(枠組みを整えよう, lec=2 , qnum=3 ,admin) -ここで一歩ふみこんで、''簡単だけれどムズかしい''話をします。 -「ふえる」「減る」と簡単にいうけれど、これをちゃんと定義するには、まず枠組みを整理しないとダメ。 -さて、「ふえる」「減る」というにはかならず、まず、なにかをなにかと比較する必要がある。 -しかし、すべての比較がただちに「ふえる」「減る」につながるわけではない。 -右手にリンゴ1個をもち、左手にミカン2個をもち、右手のほうが重いと感じても、「ふえた」「減った」とは、絶対にいわない。 #enddivregion #qanda_set_qst(2,4,0){{ 「ふえる」「減る」といえるのは、どういうタイプの比較か? }} #qanda(2,4) #qanda_solution(2,4){{ <p>解答:</p> <p>アレがコレに <span style="color:red;">なる</span> という関係があること</p> <p>解説:</p> <p>たとえば、小麦1kgと小麦2kgというように、同種のモノの比較でなければ、「ふえる」「減る」という言葉はつかえないか?というと、これはちょっと狭すぎます。</p> <p>たしかに自分の体重の場合、先月に比べて「ふえる」「減る」といえるのは? もちろん、同じ自分の体重だから。</p> <p>でもそれだけではありません。</p> <p>先月の体重がもとになって、それがいまの体重に<span style="color:red;">なった</span> 。...といえば、先月の体重が「原因」でいまの体重が「結果」だと<span class="tooltip">いえないくもない。<span class="dscp"><span class="text">でも太った「原因」は、やっぱり食べ過ぎでしょう。先月の体重が「原因」というのはやはりちょっとヘン...「〜のもと」くらいがよいかも...</span></span></span></p> <p>いずれにせよ「なる」というのでよいのなら、違うモノでも「ふえる」「減る」といえそうです。</p> <p>つまり、原因と結果の関係があれば、同じなにかが、ある<span class="tooltip">かたち<span class="dscp"><span class="text">目に見える姿かたち すなわち <span style="color:yellow;">shape</span> です。</span></span></span>からた別のかたちに「なった」あるいは「変わった」と考えることができるわけです。</p> <p>まったく同じモノでなくても、OK。必要なのは、あるモノが原因で、別のモノが結果として生じたという「関係」です。</p> <p>つまり、$A \to B$ という関係で、この$\to$ のことを「過程」とよぶことにします。</p> <p>$A \to B$ は偶然そうなったのではなく、原因結果の関係にあるわけで、そこにはそうなるべき自然法則がはたらいているはずです。なので、この過程を「自然過程」とよぶことにします。</p> }} #qanda_set_qst(2,22,0){{ ここまでOKですか?説明がもっと必要なら、どこらあたりか、教えてください。 }} #qanda(2,22) #qanda_set_qst(2,23,0){{ 「自然過程」というのは、AならBになる、という必然的な関係があることだすれば、 それは自然過程には「技術」がある、というのとおなじことか。 }} #qanda(2,23) #qanda_solution(2,23){{ <p>OKです。必然性、再現性という基本的におなじことをみているわけです。</p> <p>たとえば、こんな疑問をだしてみてください。</p> }} #divregion(違うモノを比べる, lec=2 , qnum=4 ,admin) -でも違うモノを量的に比べるというのは、やはりできない相談。だから、やっぱり、「ふえる」「減る」は、見た目が同一なモノでないとムリなんだ、といいたくなりますが、 -たとえば、「ミルク1リットル → バター100グラム」 であると同時に、「バター100グラム → ミルク2リットル」にする方法が&qanda_tooltip(あったとする){あったとする... って、ありえない。これは自然法則に反します。};。 -このとき、「ミルク1リットル → バター100グラム」は、ミルクが「ふえる過程」、つまり「生産過程」ということになる。 -これは、架空の話になってしますが、現実には、いろいろな原因となるモノ(生産手段)が、結果となるモノ(生産物)に変わります。 -たとえば、小麦の種やクワや肥料や... が生産手段で、生産物が小麦の種という具合に。クワのような工業製品の場合だと、生産手段はもっといろいろな種類のモノがあるでしょう。 -(原料1,原料2, .... ) → 生産物1 のようなかたちになっています。つまり、 $$(a_{11},a_{12},a_{13},\cdots a_{1n}) \to a_1$$ $$\cdots $$ $$(a_{i1},a_{i2},a_{i3},\cdots a_{in}) \to a_i$$ $$\cdots $$ $$(a_{n1},a_{n2},a_{n3},\cdots a_{nn}) \to a_n$$ のようなかたちです。 -生産物の量を1にそろえれば $$A \to E$$ $A$は非負行列で要素は1以下 $E$は単位行列 -「ふえる」ということは$(E-A)x \geq O$ となる非負ベクトル$x$ が存在すること。 -一般的にやろうとすると数学の話になってしまうのですが、みなさんにはすぐれた直観力がありますから、これを $$小麦1kg,鉄2kg \to 小麦5kg$$ $$小麦3kg,鉄1kg \to 鉄4kg$$ のような関係に&qanda_tooltip(「抽象化」){$n$個を$2$個に置きかえて、つまり抽象化して、本質を洞察するです。こっちのほうがずっと高級なんだ、といっちゃいましょう。};できるはずです。 #enddivregion #qanda_set_qst(2,5,0){{ <p>「$小麦3kg,鉄1kg → 鉄4kg$」は「$小麦1kg → 鉄 x kg$」になる。</p> <p> $x$は?</p> }} #qanda(2,5) #qanda_solution(2,5){{ <p>解答:</p> <p>$x=1$</p> <p>解説:</p> <p>「$小麦3kg,鉄1kg → 鉄4kg$」において、生産物の$鉄4kg$から、原料の鉄$1kg$を引けば、</p> <p>原料の小麦3kgが、$鉄4kg-鉄1kg=鉄3kg$ に「なった」ことがわかる。</p> <p>つまり、「小麦1kg → 鉄 <span style="color:red;font-weight:bold">1kg</span>」になる。</p> }} #qanda_set_qst(2,6,0){{ <p>「$小麦1kg \to 鉄 1 kg$」なら、「$小麦1kg,鉄2kg \to 小麦5kg$」は「$小麦 y kg \to 小麦5kg$」になる。</p> <p> $y$ は?</p> }} #qanda(2,6) #qanda_solution(2,6){{ <p>解答:</p> <p>$y=3$</p> <p>解説:</p> <p>$小麦1kg \to 鉄 1 kg$なら</p> <p>$小麦1kg,鉄2kg( \leftarrow 小麦2kg ) → 小麦5kg$</p> <p>小麦<span style="color:red;font-weight:bold">3 kg</span> → 小麦5k</p> <p>つまり、「$小麦1kg,鉄2kg → 小麦5k$」という過程を通じて、小麦は「ふえている」。つまり、これは小麦の「生産過程」。「消費過程」ではない。</p> <p>同様にして、「$小麦1kg,鉄2kg → 鉄4kg$」が鉄の「生産過程」であることもわかる。</p> }} #qanda_set_qst(2,24,0){{ ここまでOKですか?説明がもっと必要なら、どこらあたりか、教えてください。 }} #qanda(2,24) #qanda_set_qst(2,7,0){{ <p>「$小麦1kg,鉄2kg → 小麦5kg$」のような、違うモノを含む物量の比較は、価格を通じて金額に集計する必要がある。</p> <p>ふえたか、減ったかは、けっきょく価格が決まらないとわからないのだ。</p> <p>真か偽か。理由ものべよ。</p> }} #qanda(2,7) #qanda_solution(2,7){{ <p>解答:</p> <p>偽。</p> <p>「自然過程」を組み合わせることで、その生産に必要な生産手段の量を、生産物と同じ種類の物量に置き換えることができるから。</p> <p>解説:</p> <p>これが偽であることを、これまで説明してきたわけです。</p> <p>ムズかしかったかもしれません。</p> <p>でも、ふえたかどうか、は、生産技術できまること、価格の決定にさきだってきまることです。</p> <p>これから「生産技術」→「価格」のシステムを考えます。物量レベルで「生産」概念が定義できること、これがすべての基礎です。</p> }} #divregion(生産の一般的定義,lec=2,qnum=7,admin) -$ I \longrightarrow O $ --$I,O$ は量的な状態 --$\longrightarrow$ は「...になる」「...に変わる」という結びつきを表し、これを「過程」とよぶ。 --$I$ を過程への「投入」 input、$O$ を過程からの「産出」 output とよぶ。 --&qanda_tooltip($O \geqq I$){等号のケースはどっちに含めてもいいのですが、さしあたり「生産」のほうにいれておきます。理論的には空集合だからです。}; のとき「生産」とよび、$ O < I $ のとき「消費」とよぶ。 #enddivregion #qanda_set_qst(2,25,0){{ ここまでOKですか?説明がもっと必要なら、どこらあたりか、教えてください。 }} #qanda(2,25) ------ #divregion(今日のまとめ, lec=2 , qnum=7 ,admin) -厳密な定義には「対」を考えることが有効。 -「生産」の「対」は「消費」である。この講義ではこの意味でのみ「生産」という用語をつかう。約束事です。 -「生産」「消費」の判別は、量が「ふえたか」「減った」である。 //-ふえたか、減ったかの比較は、「自然過程」が存在すれば可能である。 -違う種類のものの間でも、「自然過程」を組み合わせれば、「ふえたか」「減った」を考えることができる。 -ということで、&color(red){価格を前提にしなくても、生産技術がわかれば、生産過程かどうかはわかるんだ}; というお話でした。 #enddivregion