第3節「労働力の購買と販売」
「価値通りに買い価値通りに売り、しかも、この過程を通じて出発点の価値を上まわる価値が発生する」こんなことが可能だろうか?第2節の終わりでマルクスはあらため一般的定式 G—W—G’の矛盾を提示します。続くこの第3節では、労働力という商品の価値について説明し、第5章の第1節「労働過程」を媒介にしながら、第2節「価値増殖過程」で労働が新たな価値を生みだす過程を分析することで「手品はついに成功した。貨幣は資本に転化した。」(S.209)と宣言します。一言でいえば、労働力商品の使用価値である労働が新たに生みだす価値は、労働力の再生産に必要な労働時間で決まる労働力商品の価値を超えうる、というのがタネ。でもたいてい、謎解きというのは、答えをきけばアタリマエでつまらない話になります。せっかくですから、ここでは謎解きとしてではなく、労働力商品(化)とはなにか、もう少し中味にたちって考えてみたいともいます。
労働力商品の発見
- 最初の2パラグラフでは、労働力商品の特性を説明。
- 商品の購買G—W も販売 W—Gも価値の大きさを変えいないのだから、
- 価値増殖は、買われた商品Wが消費される過程で価値が新たに形成されることによる以外ない。
- 価値を形成するのは、労働である。
- 労働する能力、すなわち労働力が商品として買える必要がある。
- 労働力Arbeitskraft 労働能力 Arbeitsvermögen の簡単な概念規定….第2パラグラフ
二重の意味で自由な労働者
- 労働力の販売は、一定期間の契約による、対等な取り引き(奴隷との違い)
- 自己の労働力の所有者としての労働者、自由な売り手としての労働者….第3パラグラフ
- 同時に、生産手段からも「自由」である労働者 … 第4-6パラグラフ
歴史的存在としての労働力商品
- 7-9 パラグラフ:註41まで
- 二重の意味で自由な労働者の形成は、歴史的発展の産物。
- 商品生産、商品流通は社会的分業はある程度発展するなかでひろくみられるが、
- 自由な労働者の出現は、資本主義時代 die kapitalistische Epoche に特有なことである。
- 労働力の商品化とともに「労働生産物の商品形態が普遍化される」とは、どういうことか?註41
労働力商品の価値規定(1):自己の維持費
- 10パラグラフ
- 「労働力の価値は、他のどの商品の価値とも同じく、
- この特殊な物品の生産に、したがってまた再生産に必要な労働時間によって規定される。」
- ここから、労働力の価値は、生活手段の生産に必要な労働時間によって決まる、という結論がどのように導かれているのか、検証してみよう。
- 「他のどの商品の価値とも同じく」という点に込められたネライはなにか。
- 生活手段の範囲は、歴史的かつ moralische な要素を含む
労働力商品の価値規定(2):養育費
- 11パラグラフ
- 子どもに対する養育費(老齢者の問題や家庭内労働の問題などにはふれない)
- 労働人口の維持:世代交代の意味をどう考えるか。
- 労働力の「再生産」には、子ども養育費も含むというイデオロギーの問題
- 労働人口の問題は、このあと、資本の蓄積過程を考えると微妙(相対的過剰人口の形成)
- 「産業予備軍」の維持のための費用は、当然、除外されるのだろうが….
労働力商品の価値規定(3):養成費・修業費
- 12パラグラフ
- 自己のスキルの形成に要する費用(子どもの教育ではない)
- 普通の労働力に関してはほんのわずかだ、とされているが….
- 養育費、養成費プラスalpha(例えば住宅)は、労働者の生計費のなかで次第に大きなウェートを占めるようなっている点をどう考えるか
- 「貧困化」の問題は、収入の問題と同時に、支出面での変化が大きく作用している。
生活諸手段の価値
- 13-16パラグラフ 註48まで
- 平均計算
- 標準的な品質での再生産
- ロッシへの反問:労働能力と生活維持諸手段
売買形式の特殊性
- 17パラグラフ 註51まで
- 後払い契約(詳しくは第6篇「労賃」で述べられている)
流通部面から生産部面へ
- 18-20パラグラフ 註51まで
- 市場の外で剰余価値は「生産」される。
- 流通部面は「自由・平等・所有・ベンサム」であるが…
- かなりレトリティカルに書かれているが、
- 「どのようにして資本そのものが生産されるか」とか、「貨幣所有者は資本家として先にたち…」といった表現は適当だろうか?