小幡道昭
2008-10-12 (日) 16:20:39

概要

第7篇「資本の蓄積過程」

「蓄積過程を純粋に分析するため」(1)「流通過程の正常な通過」(2)「剰余価値の分割」は捨象、という条件で考察を進める。

第21章「単純再生産」

本章の基本テーマは、単純再生産であっても、再生産過程として、資本賃労働関係を再生産するという点にある。階級関係再生産論である。

  • 再生産の定義(21章冒頭):消費を止められないように、生産も止められない。つまり、引き続き生産すること、すなわち再生産することすなわち再生産という定義である。

Keine Gesellschaft kann fortwaehrend produzieren, d.h. reproduzieren, ohne fortwaehrend einen Teil ihrer Produkte in Produktionsmittel oder Elemente der Neuproduktion rueckzuverwandeln. S.591

問題 1 :これは再生産の定義になっているか。なお、この箇所は、第2巻第16章「可変資本の回転」第2節「個別可変資本の回転」の冒頭で再度引用されている。例えば次の言説は正しいか。「人間はつねに労働生産物を消費しないと生きていけない。したがって、繰り返し、労働し、生産する必要がある。つまり、再生産が不可欠なのである。」

  • 単純再生産の規定
  • 単純再生産でも新しい性格が刻印されるとして、

(1)労働者による(買い戻し)にふれている。S.593

「労働元本」という形態と、賦役労働を比較することで「変装」の意味を説明している。

(2)前貸資本が新たに形成された剰余価値に置き換えられる(領有法則の転回)S.595

(3)賃金労働者を再生産することになる。(階級関係の再生産)S.596

  • 生産的消費と個人的消費を区別し、個人的消費は「蒸気機関に石炭や水を与える」S.597 のと 同じであると説明してる。

問題 2 :労働力商品の生産という考え方は成り立つか。S597-8. 私はこれに懐疑的である。「資本家階級と労働者階級との再生産(すなわち維持)」K.,II,S.391 die Reproduktion (d.h. Erhaltung) der Kapitalistenklasse und der Arbeiterklasse,という用語法の「維持」のほうをとりたい。

  • 資本家は労働者の個人的消費を最低限に限り、必要な生活物資を与えるように努めるだけでよい。あとは労働者の自己維持の本能に委せばよい。つまり、資本家が労働力を「生産」するのではなく、「生産」するのは、労働者自身である。S.597-598

問題 3 :「不生産的消費」unproduktive Konsumtion S.598末 の意味。生産的消費という考え方も成り立つか。

  • 社会的観点から見れば、労働者階級は生産過程の外部でも「資本の付属物」Zubehoer des Kapitals S.599 である。

問題 4 :「ローマの奴隷は鎖によって、賃金労働者は見えない糸によって、その所有者につながれている。」Der römische Sklave war durch Ketten, der Lohnarbeiter ist durch unsichtbare Fäden an seinen Eigentümer gebunden. S.599 というが、これはどういう意味か。

「資本蓄積の結果としての労働力の価格の騰貴は、賃金労働者が自ら鍛え上げた金の鎖の長さと重さが、いくらかその張りのゆるみを許す、ということを意味するにすぎない。」Steigender Preis der Arbeit infolge der Akkumulation des Kapitals besagt in der Tat nur, daß der Umfang und die Wucht der goldnen Kette, die der Lohnarbeiter sich selbst bereits geschmiedet hat, ihre losere Spannung erlauben.S.646 ともいっている。後で読むところであるが、「見えない糸」と、「金の鎖」はどういう関係になるのか。

  • 熟練労働者の移住をめぐる「工場主の宣言」E.Potter タイムズ紙の論説という時事問題にふれたあと、
  • 資本主義は「労働力と労働条件の分離を再生産」し、自己自身の基礎を繰り返し形成するという。資本主義は、「資本関係」を再生産する。S.604始

問題 5 :労働者の「経済的隷属」ökonomische Hörigkeit S.603末 とは何か。 雇い主の交替や労賃変動などの外見で隠蔽されているが、労働者か階級全体としてみると、労働力を売るしかない存在として、自ら繰り返し位置づける関係にあるということ。

  • 最後に資本主義は、「資本関係」を再生産する仕組みをもっている、とまとめている。

問題 6 この章全体に関しての疑問だが、「再生産」という用語が、生産物の再生産といういう意味と、社会関係の再生産という意味で、二重につかわれている。このような用語法、double meaning を利用した洞察、一種の比喩的拡張、は適切か。資本主義のもとでは、モノの再生産は、同時に社会関係の再生産である という命題は成り立つか。-- 労働力商品の特殊性を明確にすることにつながらない、と思うのだが..... しかし、マルクスの搾取論(労働録の価値規定、価値通りの交換、結果としての剰余価値、という論理)からいうと、労働力が「生産」される、ということは、必要条件となる。

問題 7 さらに基本的な問題として、再生産と蓄積とはどのような関係にあるのか。

  1. 蓄積がなくても再生産という概念は成り立つ。
  2. 蓄積は再生産を必ず伴う。
  3. 故に、再生産概念のほうが、蓄積よりも基本的な概念である。
    第2巻第20章も「単純再生産」というタイトルをもつ。蓄積論と表式論は従来からその関連を問われてきた。先に表式論を説くか、蓄積論を説くか、という宇野弘蔵の問題提起。

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Last-modified: 2021-02-20 (土) 17:32:13