2012年度/冬学期

「余剰が形成されるならば,資本の運動が発生する」という命題には,以下の2点で疑問がある.

  1. 余剰が形成されたからといって,それが市場に持っていかれることにはならない.貯蔵されたり廃棄されたりする途もあり,余剰の存在自体が市場の生成を保証するわけではない.
  2. よしんば市場に出されたとしても,余剰の交換が1回きりにならず,継続的な資本の運動になるとは限らない.必要物の交換はW-G-W'の1回きりで終了するからといって,余剰の交換ならそうならないとは限らないからである.

沖の論考では,「市場像」の対立は主としてそこでの商品が必要物か余剰か,あるいは単純流通か資本流通かという点を巡って描かれており,市場が「交換の場」であるというところには必ずしも疑義が呈されているわけではない. そこでは,市場に内在した形での資本の運動の導出のためには「交換の場」としての市場という理解から見直す必要性が逆説的に露呈されている.


自己増殖する価値の運動体という資本概念の規定の端緒は、それ自身増殖する母体の確定におかれる。つまり、単なる余剰の増加とは区別された「自己増殖」が資本概念の核心をなす。ぞのため「余剰を貯蔵可能な形態で保持」することとG-W-G’という資本流通とをつなげることはできない。


Q: ロック的な貯蔵とG-W-G'は延長線上にあるのか、繋がるのか?

テクストによると、「ロック的な貯蔵」の対象になるのは、「耐久性のある貯蔵可能な余剰」である。この観点からなる「余剰交換論」は、否定的意味であった余剰を「肯定的な余剰に転化させる機制としての交換に着目(PP.25-26)」し、単純流通の市場像では見えなかった余剰保存及び増大の「欲動」を照明した点で、その意義を評価されている。 しかし、以上の余剰交換論がG−W−G’という資本の運動の発生に帰結するには、まだ説明を要する部分が残っている。貯蔵される余剰(what)と、それを保存及び増大させようとする「欲動」(why)の存在を仮定しても、それがどうやって市場での交換を通じて増殖されうるのか(how)という問いはまだ答えられていない。この問いは、G-W-G'という資本の運動が増殖させようとする余剰とは何であり、その姿態変換がどのようにそれの増殖をもたらすかにも言い換えられよう。



本論では、余りものから余剰への肯定的転換について言及があるが、その余剰が如何にして資本流通を生み出すのかということについては明確に述べられていない。そもそも、単なる余剰であれば、資本家的商品生産が行われずとも存在してきたのであって、それが資本流通に転ずるという議論に説得性はない。


議論されたこと �スミスとマルクスの市場像の相違(マルクスによるスミス批判の解釈)

スミス:自己労働←|他人のための労働 ||奢侈(ロック)

マルクス:   他人のため

p10のスミスの引用文において、

「ごく小さい部分」・・・自分の労働で生産したもの

「欲求の大部分」・・・交換によって充足する    

論文中では、スミスの引用文を、自己労働によって生産されていた部分が他人のための労働によって置き換えられていく、と解釈しているように読める。が、果たしてその解釈は妥当か。また、「ごく小さい部分」は”在る”か否か。”ごく小さい”という表現は、”無い”とも読める。然らば、スミスとマルクスの市場観に差はないことになってしまうのではないのか。

�商品生産と半(非)商品生産について

本論文では、明確に、非商品生産は独立生産者によって行われる、と考えられている。 然し、議論を整理すれば、

・(全面的)商品生産・・・単純商品

          ・・・資本家的商品

・    非商品生産・・・半商品

という3つになる筈である。論文中においては、スミスが半商品生産をやっていると考えているのではないか。

�単純流通と単純商品生産が相即不離である、ということについて

本論文中では、上述の命題が主張されているが、此れは如何様にして主張可能なのか。単純商品生産なら単純流通であるということは言えるが、その逆が何故言えるのかが明確に説明されていない。 単純流通であるなら単純商品生産であるという命題の対偶:「単純商品生産でないのなら単純流通でない」 についての反例は容易に存在する。


前回のゼミで、単純流通 W - G - W の対をなすのは「資本流通」G -W -G' だ、といいましたが、 この意味での資本流通というタームは『資本論』にはないようです。 訂正します。---小幡 2012-10-11


添付ファイル: file2012年10月15日10時29分31秒.pdf 254件 [詳細]

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Last-modified: 2021-02-20 (土) 17:32:13