『資本論』第1巻を読む III 第5回

第13章 機械と大工業 その1

今回から3回に分けて、第13章を読んでいきます。第1のパートは少し長いですが、第3節までです。この節までのあらすじは、第4節の冒頭のパラグラフにまとめられています。

概要

第1節「機械の発達」

機械と道具の区別

Industry という用語の多義性については、生産様式という用語の両義性とあわせて、前回も議論しました。ここでも「18世紀の産業革命」(S.392):「産業革命」という名称は『資本論』のこの章で頻出します(もともとはフランスあたりで使われはじめたようで、語源に関してはwikipediaのEtymologyに詳しい説明があります)。 さて、この章における「機械の定義」、その特徴は?
たとえばS.394(註90のまえのパラグラフ)を読むと

  • 原動機・伝導機ではなく作業機 Arbeitsmaschine に機械の本質がある。
  • 労働者=「操縦者 Operateur」(S.395)の技能の解体:
    • 因みに英語版では the distinction between man as mere motive power, and man as the workman or operator properly so called とかなり意訳されていますが… いずれにしても operator です。operate とはなにか?この問題は、人間労働の本質を「合目的的性」と捉えた「労働過程」へさかのぼって、もっと掘りさげる必要があります。
    • ただ、ここではむしろ、マルクスの時代に注目されていた、新たな現象に引きつけて読者を説得する記述スタイルなっています。それはそれで重要なのでしょうが、いまからふり返るともっと原理的な分析が必要だと思います。
    • 「ミシンや製パン機などのような、これから進路を開きはじめなければならないすべての機械」というのですが、そういえば「ミシンは機械か?」なんていう妙な質問を学生によくしていました。
  • Steam engine に代表される原動力の革新ではなく、道具 → 機械を「産業革命」と捉える。マニュファクチュアの熟練の解体 → 新たな生産様式 というのがメインの主張です。

機構 Mechanismus

  • 「産業資本の出発点となる機械は….」Mechanismus (S.396 註 95のまえのパラグラフ)
  • これはつぎにでてくる「機械の協業」にあたるのだと思います。「機械の体系」と対比されます。
  • ひとりの手で一つの道具 → 道具の連結 → 規模の拡大 → 大工業 という脈絡で、メカニズムというのがもう一つのキーワードでしょう。
  • mechanizm とはなにか?これも原理的に考えてみましょう。

体系 System

  • 「機械体系」Maschinensystem (S.399 註99のすぐあとのパラグラフあたりからはじまる議論)
  • System とはなにか?これはけっこう議論されてきた問題です。
  • メカニズムとシステムはどう違うのか?」なんて、これもよく本務校の学生にたずねたことのある問題です。そういえば、むかし某大学で「経済システム論」という講義を非常勤で担当したことがあり、そのときに仕事柄、システムという用語について調べてみたことがありました。
  • その核心をなすのは「部分機械相互の絶え間のない連動」 die beständige Beschäftigung der Teilmaschinen(S.401) 「連続性」die Kontinuität
  • 要するに、「自動機械」Automat(英語の automatic machine) これはプラス「自動的な原動機」sich selbst bewegenden ersten Motorが必要だが…
  • このテキストの前半は、動力は人力でもOK, 問題は Arbeitsmaschine だとされていた。後半は、焦点がAutomatに移っている。機械=自動装置論、すなわち「機械経営」 Maschinenbetrieb (完全オートメーションに近いイメージ S.402)は、このあと、労働力を全体として排出するという議論になり、機械化 → 雇用の収縮 → 産業予備軍の累積 へとつながる。これに対して、作業機 → 熟練の解体は、婦人労働・児童労働の吸収(熟練労働者の排除を上回る)につながる。

機械の生産

  • 機械経営はまだ自立していない。なぜなら、機械の生産は相変わらずマニュファクチュアに依存しているから。
  • このあとに「機械によって機械を生産する」Maschinen durch Maschinen produzieren S.405 段階が続くというのですが
  • ここにでてくる機械は Automat ではなく、大型のArbeitsmaschine です。つまり「機械的旋盤」のような,労働者がマニュピュレートする工作機械です。

結語:労働の行方

  • 最後の1パラグラフは、簡潔ですが、読み方がむずかしいと思います。
  • 以下は私の感想的コメントです。
  • 「機械は直接的に社会化された、または共同的な、労働によってのみ機能する」というのが骨子でしょうが
  • この節の内容がそうなっているのかどうか、とくに Automat に至る展開は、労働そのものが不要になる、という自動化の話です。
  • 「社会化された労働者による個別的な労働者の駆逐」というのですが、この駆逐は自動化によってなされているようにも読めます。「社会化された労働者」がここまでのところでは主役として登場してきません
  • 機械論には、どうも二つの顔があるようで、謎です。

第2節 生産物への機械の価値移転

自然力

  • 「機械によって道具は駆逐されない。…. 資本は、…自分の道具を自分で動かす機械をもって労働者を働かせる」とは?

価値形成要素としての機械

  • 機械の価値と、各生産物に移転される価値部分とのギャップについての一般的説明。「平均的摩損」。
  • リカードが機械の価値移転部分を無視したという批判:註209。
  • 機械の価値 ÷(「作用範囲」×「速度」):S.409末尾からS.411末まで。
  • 機械の使用は C/(V+M) は高めるが、Cの絶対量は減少する。なぜならC+V+Mの絶対量が減少するから。
  • 註(21)にデカルト機械論への言及。

機械によって置き換えられた労働について

  • S.412から末尾まで。
  • 「機械の生産性」という概念がいきなりでてきて、ちょっと読みにくいですが…要するに
    • 一定量の生産物(13/16 lb/日 x 6日 = 365 5/8 lbの綿糸)の生産に直接必要な労働時間 v+m と、このために償却される労働手段(道具ないし機械)の生産に必要な労働時間 C の比較を考えているようです。ただし、「機械の生産に必要な労働時間」というので、償却部分なのかどうか、読みとりにくいのですが…
    • 労働対象(綿糸など)の生産に必要な労働時間 c は、共通なのでここではでてきません。
    • 機械を使ったときを添え字1、道具を使ったときを添え字2、で表すと、一定量の綿糸生産に必要な労働量は、機械のときと道具のときで ….
    • (v1+m1)+c+C1
      < (v2+m2)+c+C2
    • C2をゼロとみると(v1+m1)+C1 < (v2+m2)
    • (v2+m2)-(v1+m1) が「機械が節約する労働」:すぐ後の綿糸の例だと 2700(=6×450錘)労働日 – 15労働日
    • これと「機械の生産に費やされる労働」C1 の差
    • [(v2+m2)-(v1+m1)]-C1 が「機械の生産性」とよばれているものです。
    • この差は「機械自身の価値」C1と「機械によって置き換えられる道具の価値」C2の差には依存しない…. というのですが、もしC2の存在を明示するなら、「機械の生産性」もこの分を差し引いて考えるべきでしょう。[(v2+m2+C2)-(v1+m1)]-C1=[(v2+m2)-(v1+m1)]-(C1-C2)
    • すぐ代数的な表現で考えるクセがついているわれわれには読みにくいところですが、この後でてくる例解をみるとわかります。労働時間と労働日とか、オンスとポンドとか、面倒な換算があり、正直にいって読みとばしてしまいたくなるところですが
    • ポイントは、一定量の生産物を共通項とすることで、労働対象の価値 c を消して考える、というアプローチでしょうか。
  • 資本主義的な機械の濫用
    • 「機械にその機械によって置き換えられた労働力と同じだけの費用がかかるとしても、機械そのものに対象化された労働は、つねに機械によって置き換えられた生きた労働よりもはるかに少ない」というのが次のパラグラフの結論です。
    • 蒸気機関がでてくるこの例(蒸気機関 1/4シリング と66人の15シリングの比較)では、事実上、v1+m1=0 C2=0 となっています。
    • v2+m2 と C1=(c0+v0+m0) の比較になり、結論はうえの命題のように
    • if v2 = C1 then v2+m2 > C1
  • 低賃金化による機械導入の抑制作用
    • 最後のパラグラフで、うえの命題をつかって、資本主義のもとでは機械の導入が抑制され、低賃金による過酷な労働が強いられると主張します。
    • 剰余価値率が「同じ時期でも産業部門が異なれば異なる」といっているところは、ちょっと通常の想定とズレているように思いますが(備忘)
    • イギリスで新たな機械が発明されても、すでに先行して他の機械がいろいろなところで導入されていて、労働過剰→低賃金(v2が小さい)のため、新規の導入は抑制される。
    • この新機械は、まだ機械による低賃金化をみていない、アメリカで導入されるといっています。
    • これは、後発資本主義国の産業化について、宇野弘蔵やガーシェンクロンが指摘したキャッチアップセオリーでしょう。イギリスで発達した鉄鋼技術が、ドイツで現実に導入された。でも、それはやはり、ドイツの相対的な高賃金のためではない、ですね。
    • 理論的に導出された命題を、歴史的現実にどう適用すべきか、こうした「直接適用説」をタブー視してきたのですが、私は再考すべきと思っているので、その意味でちょっとおもしろかったです。

第3節 労働者に及ぼす機械経営の直接的影響

a 資本による補助的労働量の取得。婦人労働および児童労働

  • 「労働者家族」という概念:これに基づく賃金分割論が提示されている。「いまや労働者は、妻子を売る。彼は奴隷商人になる。」というジェンダーバイアス。時代性。S.418
  • 「結合された労働者人員に圧倒的多数の児童および婦人をつけ加えることにより、機械は、マニュファクチュアにおいて男子労働者が資本の専制に対抗してなお行っていた抵抗をついに打ちくだく。」S.424 という結語。資本主義的な生産のスタイルは、男子労働者の抵抗を打ちくだいたあとのすがたなのか。機械経営のもとでの労働のすがたが明示されていないように思うのですが…

b 労働日の延長

  • 機械=固定資本の存在が、遊休を避けるための長時間労働が強いる、ということは可能か?機械と労働日の延長は必ずしも結びつかないのではないか。
  • 道徳的摩損=社会的摩損 sozusagen moralischen Verschließ がでてきます。「機械の価値」は、投下労働価値説との関連で、原理的にどう処理するべきか、問われるところです。S.428
  • もう一つ、理論的な問題ができてきます。「強められた労働」です。新しい機械によって、「力能を高められた労働に転化し、機械生産物の社会的価値をその個別的価値以上に高め、…」S.429という問題です。「特別剰余価値」の概念を認めるか、これは相対的剰余価値の概念とどう関連するのか。たしかに価格変動による「超過利潤」と「特別利潤」は区別できそうですが、市場価値論も含めて、複数の生産条件が存在する状況下での価値論はまだ未解決の問題があるように思います。
  • このあと、S.429から末尾まで、理論的な問題が論じられています。機械の使用がもたらす「内的矛盾」immanente Widerspruch の問題です。事実上、資本構成高度化の蓄積→相対的過剰人口につながる議論です。機械化=労働の排除という同じ根から、労働ゼロ=剰余価値ゼロの世界、利潤率の傾向的低落論なども、生じてきます。
  • 少しわからないのは、すぐまえに指摘したように、この過剰人口論と「労働日の延長」がどう結びつくか、です。
  • 最後のパラグラフ、とくにアリストテレスなどがでてくる後半は、レトリカルでおもしろいのですが、「特殊なキリスト教的な器官」spezifisch christliche Organとはなにでしょうか。カソリックとプロテスタントの区別もあり、マルクスがしばしば言及する「宗教」の問題は複雑です。

c 労働の強化

  • 労働日の延長が限界→労働強化というの基本。延長+強化が進むが、短縮+強化に転じる「結節点」が存在するといっています。
  • 「気孔Poren der Arbeitszeit充填」「労働の凝縮 Kondensation」 u.s.w.
  • しかし、「強度」の概念は理論的に難しい問題があります。
  • このあと、『資本論』は当時の事例に則して、労働強化の実態を暴いてゆくのですが、価値論との関係は不明です。「1時間で2時間分の労働がなされる」というように、時計で計れる物理的な時間以外の「時間」を想定すべきいかいなか、といっているようにも思えるのですが、私自身は、やたらに「社会的」という修辞を付して概念の拡張をおこなうことに対して、きわめてレストリクティブです。
  • こうした事例は、現代でもブラック企業の問題とか、過労死の問題とか、数限りなく思い浮かぶのですが、理論はこれにどうアプローチできるのか、方法論的な問題があります。もちろん、こうした実態が非難されるべきなのはそうなのですが…
  • 後半は、とくに「工場法」との関連が論じられています。
  • 末尾のパラグラフでは、工場法による労働時間の制限が、結果的に、「イギリス工業の嵐のような前進をもたらした」といいます。この理由は、労働強化によるのか… もう一度、読み返してみましょう。

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