2004-12-11 (土) 08:21:39

昨日の演習で青才さんがご自分の論文を配布して説明してくれた問題についてです。単純代位の怪の続きです。

例解2

シンプルな例解です。たしかリカードが『原理』のなかで1年目に10時間で機械を生産しそれを使って2年目にさらに10時間でつくった生産物の合計20時間の投下労働時間と、1年間に20時間で生産された生産物の生産にかかった20時間の投下労働時間とでは、同じ価値をもつのか、という問題を提起していたと思います。それに類する問題です。

第1工程に10万円、第2工程に10万円というかたちで、2期かかって生産する生産物を考えることにします。表を書くのが面倒なのでここに書きませんが、青才さんの論文にある表を思いうかべてください。毎期20万円投下して費用価格で20万円の生産物が生産される、ということになります。ただし、そのうちの10万円は1期まえに投下され、10万円はこの期に投下されたものです。利潤率をRとします。

リカード流に考えると

この生産物の価格は
X = 10(1+R)(1+R) + 10(1+R)
となりそうです。複利計算です。
1期まえに投じられた10万円は今期期間も、利潤を生む、というわけです。

資本分割・並行生産で考えると

この生産過程は、毎期20万円投じて、その20万円の費用価格に相当する生産物を毎期産出しているのだから、その価格は
Y = 20(1+R)
でよいのではないか、ということになりそうです。いわゆる複利計算で、
X - Y = 10R(1+R)
のギャップがでるわけです。
資本分割・並行生産で、スラッファがいう「日付のある労働」は解消するのでしょうか。なにか基本的なことを勘違いしているのか、まだ、ボーっと考えている段階ですが、いかがでしょうか。

X-Yの意味するもの

obata (2004-12-12 (日) 20:06:20)

資本分割すると、毎期20万投じてその分の産出が得られるから、Y=20(1=R) Y=20(1-R)でよいのではないか、というとやはり、そうはいかない、ということになりそうです。仕掛品が毎期必要なのですから、これがない場合と同じような価格では平均利潤が得られないでしょう。

10R(1+R)の意味するもの

obata (2004-12-22 (水) 06:14:39)

10R(1+R)=10R+10R^2
について、10R と10R^2 にわけて考えてみます。

10Rについて

これは仕掛品として、生産過程につねにおかれていなくてはならない資本部分10に対する利潤が必要となる、ということで発生する利潤です。連続生産で考えると、生産物の費用価格は10+10=20ですが、連続生産をおこなうのにはこの20ですむわけではありません。仕掛品として第1工程から第2工程に移る10が必要ですから、合計10+20=30必要になる、というわけです。したがって、連続生産で考えると、

生産価格 = 費用価格 + 投下資本x 一般的利潤率 =  20+30R

となるわけです。

リカード方式との関係

リカード方式では、初年度の10と次年度の10を別々に考えて、初年度の10は次年度にもう一度投下されていると考えて式を立てたのですが、それは展開すれば次のようになります。

10(1+R)(1+R)+10(1+R) = 20 + 30R + 10R^2

つまり、連続生産を考えた場合の20 + 30R とほぼ同じ結果になるわけです。

10R^2の意味

違いは10R^2だけですが、リカード方式では初年度に投下された10は次年度、本来は利潤をともなっており、この部分も他に投下できず、拘束されているから、この利潤部分も利潤を生むというように考えるわけです。つまり、10R x Rです。

これに対して、資本分割による連続生産という考え方をとると、立ち上げのところは別ですが、連続的に運行されている部分をとると、毎期資本は30ですむのだから、平均利潤は30Rのみで済む、ということになりそうです。私はこれが連続生産を考える効果かなと思います。たしかに仕掛品は、前期に生産されたものですから、これは10(1+R)の価値をもっているというように考えれば、リカード方式に還元されます。生産期間を1期とみれば、仕掛品は固定資本となるでしょう。したがって固定資本の処理の問題になりそうです。連続生産では生産期間は2期かかるということになり、固定資本は存在しないということになりますが、生産物の費用価格総額と資本総額とはずれるわけです。

異時点の価値の合算問題

抽象的に考えると、異なる時期の価値の合算をどう考えるか、という一般的な問題が潜んでいます。費用価格が10+10と考えたのですが、これは異時点の労働時間を合算しているからおかしい、という議論はあり得ると思います。しかし、この問題を厳密に考えようとすれば、はじめの10もその内部に異時点を含んでいることになります。労働時間という概念が自体が、ある期間を考えて合算するを前提としているので、そもそも労働時間と労働時間を合算するという概念自体が矛盾をはらむ、ということになりそうです。このあたりは一筋縄ではゆかないな、という感じです。

  • リカードの例というのは、第1章第4節末尾 Sraffa編 p.37です。 -- obata 2004-12-22 (水) 15:21:59

小幡文書 資本分割と利潤率計算 例解2 コメント

aosai (2004-12-19 (日) 23:08:36)

●●小幡文書 資本分割と利潤率計算 例解2
小幡,HP,Wiki 2004.12.11,+12

A.小幡さんは,HP,Wiki 2004.12.12,で

次のように書いておられます。 X-Yの意味するもの † obata (2004-12-12 (日) 20:06:20)

資本分割すると、毎期20万投じてその分の産出が得られるから、Y=20(1=R)[◆ここは,Y=20(1+R)の誤植でしょう]でよいのではないか、というとやはり、そうはいかない、ということになりそうです。仕掛品が毎期必要なのですから、これがない場合と同じような価格では平均利潤が得られないでしょう。」

◆私も,そうだと,思います。

B.「資本分割・並行生産で考えると」

[◆以下の点については,青才『利潤論の諸問題』第1章補説?「資本の回転について」[4](54-61頁)を,参照]

a.「資本分割・並行生産」の場合を考えましょう。

Z(製品の販売価格)=20(フロー量としての費用)+30(投下資本)×r’(利潤率)
となります。
「資本分割・並行生産」の場合には,当該年度において,生産工程第一(1年間)に,10が投下され,生産工程第二(1年間)には,当該年に新規に投下された10+前年度に生産工程第一に投下され・現在は生産工程第二に仕掛品として存在する10 = 20 が存在するが故に,投下資本=10+20=30,となります。
また,生産工程第一に投下された資本の回転期間は2年,生産工程第二に投下された資本の回転期間は1年です。

b.本来の利潤率(r’)と,商品当たりの利潤率(r”)

年利潤額は,貸借対照表で,本来の投下資本に対する利潤の率(r’)で表現すると,

年利潤額=30×r’,となります。(式1)

年利潤額を,損益計算表で,商品当たりの利潤率(r”)=いわゆるマークアップ率で 表現すると,

年利潤額=20×r”,となります。(式2)

年利潤額=式1=式2ですから,

30×r’=20×r”,となり


故に

r’=r”×(20/30)


すなわち,利潤率(本当の意味での利潤率はこれでしかない,投下資本あたりの利潤率)=商品あたり利潤率×いわゆる平均回転(数),

20/30=フロー量としての費用(価格)÷stockとしての投下資本量=平均回転(数)

です。

[実際の企業統計においては,「商品あたりの利潤率」(利潤/費用(価格))の代わりに,「販売価格あたりの利潤率」(売上高経常利益率=経常利益/売上高))が,「いわゆる平均回転数」(費用(価格)/投下資本)の代わりに,「総資本回転率」(=売上高÷総資本)が用いられます。

r’(利潤率)=(経常利益/売上高)×(売上高÷総資本)=経常利益÷総資本,

となるのは,当然のことです。
例解の場合の数値等を入れると次のようになります。
経常利益=20×r” , 売上高=20(1+r”),総資本=30 ]

c.ついでながら,平均回転(数)を,個々の資本構成部分の回転数の加重平均,という形で,表現しておきましょう。


平均回転数=Σ{(個々の資本構成部分/投下資本額)×各々の回転数}

当該例解の場合,平均回転数=20/30
生産工程第一に投下された資本部分については,

 (20/30)×(1/2)

生産工程第二に投下された資本部分については,

(10/30)×(1)


平均回転数=消費資本/投下資本=20/30
=個々の資本構成部分の回転数の加重平均
= (20/30)×(1/2)+(10/30)×(1)  =  20/30


C.小幡さん,HP,の,リカード流,X,の場合

生産工程第二で投下されている10が,翌年度,貨幣形態で遊休するかどうかが問題になるでしょう。

a.「資本分割・並行生産」の場合,

上記Bとなるでしょう。

b.遊休する場合,すなわち,「資本分割・並行生産」がない場合,

  • 1.この場合には,生産工程第二に投下された資本10の回転期間も,2年になります。販売がなされた翌年は,生産工程第一が稼働するのみなので,生産工程第二に投下され回収された資本は,1年間遊休せざるを得ないからです。
  • 2.とすると,私の上記Bでの計算式では,製品価格X=20+20×r”,となります。
  • 3.ですが,毎年販売があった上記Bの場合と異なり,この場合には,年販売額は,生産工程第一のみがなされている年には販売はないので,X/2,となります。
  • 4.とすると,年利潤率(r’)=年利潤{(20×r”)/2}÷20,となるでしょう。
  • 5.とすると,r’=r”×平均回転(=1/2),となります。
    平均回転=生産工程1に投下された資本の回転数=生産工程2に投下された資本の回転数=1/2,だからです。

c.小幡さんの式の,複利の問題,10(1+R)(1+R),は,何を意味しているのでしょうか。

不確かですが,これは,以下の点に関連したことではないか,と思っています。

  • 1.上記B等における,投下資本は,文字どおり最初に「投下」された時点での資本額を意味しています。ですが,貸借対照表における,投下資本(当該問題では,債務を考えていないので,=自己資本)は,資産であるが故に,正確に言うと,当該年度に実現された利潤を含んでいます。配当を行なう前だとすると,配当+当期未処分利益,を含んでいる訳です。
  • 2.故に,毎年販売を行い毎年利潤を得ている通常の資本を想定すると,投下資本は,正確に言うと,文字どおり投下された最初の資本×(1+r) さらにより正確にいうと,
    年当初の投下資本(α)+年末の投下資本{α(1+r)}]÷2 =(すなわち年央の投下資本) ,
    となります。
  • 3.とすると,年末の資産は,投下資本
    10(本当に最初の投下資本)×(1+r)]×(1+r)
    となる,と,資本家の計算としては,発想されるのではないでしょうか。
  • 4.複利の問題, 10(1+R)(1+R),の問題は,この辺の事情にあると思います。
    数学的に厳密に言うと,「資本分割・並行生産」を想定すると上記Bの計算式も正確なものではない,という点,私自身30年前頃から意識しつつも面倒なので言わなかった問題が,関連することと思います。

r'' や平均回転という点はまた別に考えてみます。問題はだいたいみえてきた感じです。ありがとうございました。 -- obata 2004-12-22 (水) 05:37:11


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Last-modified: 2021-02-20 (土) 17:32:13