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労働過程
基本規定
- 前回、生産と労働が表裏のものではないことを確認しました。
- 今回は、これによって広げられた新たな視角から労働をながめなおすことが課題です。
- まず、労働とはなにか、基本の基本から考えてみましょう。
- その場合、「労働」ということばが、知らず知らずのうちに、たとえば力仕事、あるいは工場やオフィス内の活動、あるいは賃金を得る活動などに対象をせばめてしまう可能性がある点に注意しよう。
- この点を意識的に見なおさないと、情報通信技術が急速に発展し、労働のすがたを大きく変えている現実を考えることはできません。人間の行動をもっと一般的にとらえなおし、労働とよぶべき活動の基本的な構造を考えなおす必要がある、...ということで
問題 4-1
次の一節は人間の労働を特徴づけた文章としてよく知られている。
われわれが想定するのは人間にのみ属している形態の労働である。クモは織布者の作業に似た作業を行なうし、ミツバチはその蠟の小室の建築によって多くの人間の建築師を赤面させる。しかし、もっとも拙劣な建築師でももっとも優れたミツバチより最初から卓越している点は、建築師は小室を蠟で建築する以前に自分の頭のなかでそれを建築しているということである 。
この例における「小室」は、一般的抽象的なことばでなにになりますか。労働だったら絶対に欠かせない「労働のナントか」だ、というばいいの「ナントか」にあたることばです。
このことばをつかって、人間の労働の特徴を表現してしてみてください。
解答と解説 4-1解答
目的(物)
目的を行動に先にきめる点に、人間労働の特徴がある。
4-1 の回答を +
22/60 ...1点以上 37%
問題 4-2
われわれが想定するのは人間にのみ属している形態の労働である。クモは織布者の作業に似た作業を行なうし、ミツバチはその蠟の小室の建築によって多くの人間の建築師を赤面させる。しかし、もっとも拙劣な建築師でももっとも優れたミツバチより最初から卓越している点は、建築師は小室を蠟で建築する以前に自分の頭のなかでそれを建築しているということである 。
クモの作業と織布者の作業で決定的に異なる点はなにか。
この点から、人間労働のすがたを一般的に特徴づけるとすると、どのようにいったらよいでしょうか。
解答と解説 4-2 解答
- 道具の使用
- 道具をつかう点に、人間労働の特徴がある。
4-2 の回答を +
8/64 ...1点以上 13%
問題 4-3
われわれが想定するのは人間にのみ属している形態の労働である。クモは織布者の作業に似た作業を行なうし、ミツバチはその蠟の小室の建築によって多くの人間の建築師を赤面させる。しかし、もっとも拙劣な建築師でももっとも優れたミツバチより最初から卓越している点は、建築師は小室を蠟で建築する以前に自分の頭のなかでそれを建築しているということである 。
「それを建築している」というのは比喩です。「頭のなかで建築する」とはどういうことか、説明してください。
この行為は、人間労働のどのような属性である、ということなるか。いろいろな人間の労働のすがたを思い浮かべ、なるべくどれにもあてはまるような汎用性のある表現を考えてください。
解答と解説 4-3 解答
- あらかじめ部材を整理し並べる || 手はずを整える || 設計図を描く
- 目的に対する手段を体系化する点に、人間労働の特徴がある。
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43/72 ...1点以上 60%
問題 4-4
「道具をつかう」というとき、「つかう」とはどうすることか。
その答えをもとに、機械は道具とどう違うのか、述べよ。
解答と解説 4-4解答
- 「つかう」というのは、知覚能力を具えた身体で、目的から外れないように調整すること。制御すること。コントロールすること。
- 身体でコントロールして、なにかをなにかに「する」のが道具。身体によるコントロールなにしなにかをなにかに「できる」(つまりなにかがなにかに「なる」)のが機械。
解説
- とはいうものの、こういう抽象的な定義で、目の前にあるものを一つ一つ道具か機械か、区別することはできないでしょう。
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16/65 ...1点以上 25%
問題 4-5
- とはいうものの、こういう抽象的な定義で、目の前にあるものを一つ一つ道具か機械か、区別することはできないでしょう。
- 万年筆は道具か機械か?手で文字を書く道具にみえますが、いちいちインク壺につけなくても自動的にインクがでてくる機械だ、というも入ると思います。
- .... で、いまみなさんが直面している最大の問題、「じゃ、コンピュータって道具なの、機械なの?」
- 「両面ある」なんていう、情けない答えでお茶を濁さず、もっと突っ込んで考えてみてください。
- そして子供にもわかるようにように、説明してください。
解答と解説 4-5解答
アタマの道具
- 手で操作する道具ではないが、人間がはたらきかけないとなにもできない(しない)という点で基本的に道具。
- コンピュータはプログラムにしたがって作動するが、コンピュータは自分でプログラムを書けないプログラムを書くのを補助するプログラム(道具、ツール)はどんどん発達しているけれど...点で、自動的な機械とはいえない。
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29/70 ...1点以上 41%
問題 4-6
「コンピュータが自動 自分 でプログラムをかけないのはなぜか」に答えるには、そもそも「人間がプログラムをかくとはどういう行為なのか」ハッキリさせなくてはならない。
いったい、どういうことをしているのか、箇条書きにして考えてみよう。
解答と解説 4-6解答
- モヤモヤした、やりたいことを、コンピュータに実現可能な項目にする。
- 最終目的となる項目を分析して、下位の項目に整理する。
- 項目に適したデータ構造とアルゴリズムを考える。
- 利用できる手続き、関数を探してみる。
- ... といった準備作業。
- 部品となるプログラムコードをかく。
- 部品のチェック、うまくうごくかなとデバッグ....
- 部品を組み立てる。
- エラー処理をかく自分でつかうときはたいていサボるけれど。
- コンピュータにプログラムがかけない最大の理由は「モヤモヤした、やりたいこと」を理解できないから。
- なぜならコンピュータ自身に内発的な欲求というものがないから。
- コンピュータに「モヤモヤした、やりたいこと」を伝えようとしても、意味をになう「メッセージ」レベルでのコミュニケーション能力はありません。
- コンピュータとのコミュニケーションこのときはふつう「コミュニケーション」ではなく「通信」といいますは、文字列や数値といった「データ」のレベルです。
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40/69 ...1点以上 58%
問題 4-7
「人間は自己の直接的欲求から離れて,目的を追求できる.これは人間労働の重要な特徴だ.いま食べたくない料理でも、人のためにつくることができる.目的さえきまれば、労働はできる。だから、労働とはなにかは欲求とは関係なく考えることができる.」この主張は妥当か.
4-7 の回答を +
22/65 ...1点以上 34%
解答と解説 4-7妥当ではない.
- 自分がほしくなくても、人が欲しいものをつくれるのはたしか。
- しかし、つくる目的物は空から降ってくるわけではない。自分のであれ人のあれ、「ほしい」を「欲しいモノ」にする必要がある。
- 人間の労働は、漠然とした欲求を明確な目的物にする活動を含めて考えることができるし、考えなくてはならない。
教科書の問題70です。解答は311-12ページ
自己の直接的欲求から離れて,目的を追求できる」ということから,ただちに「欲求の充足に関わる労働は考察の外におくべきである」という結論を導くことはできない.労働には,他人の欲求を読み取り,それをどのような目的・手段の関係に具体化するかという能力も含まれている.自分の欲求ではなく,他人の欲求充足の過程に浸透する活動は,資本主義の発展とともに深化している.原理論には,こうした現象を分析する理論的枠組を与える役割もある.
例えば,「おいしいものを食べたい」という欲求と,「美しいスタイルを保ちたい」という欲求は,しばしば対立する.この矛盾は,「どのような食材を買うか」だけではなく「どのような食生活をおくるか」に解決を求めなくてはならない.
労働は食材の生産で簡単には終わらない.その先の加工・摂取の過程につながっている.たしかに作った人と食べる人は別だが,どう食べるか,という領域にも作った人が関わっている.作った後は,すべてがプライベートな領域として,遮断されているわけではない.美食や健康といった欲求と,食材という労働の目的は,食生活という回路で結ばれている.「太らずにおいしいものを食べたい」といった欲求を,どのように実現するかという方向に,労働の領域は拡大してゆく.
せっかくだから,ここで,市場と労働の接合面について,もう少し突込んで考えてみよう.市場に現われる漠然とした欲望を,労働の目的となりうる対象に具体イ匕する局面は,商業の主戦場である.商業労働や接客労働は,他人の欲望を労働対象として,合目的的にそれにはたらきかける活動である.ここでは,まず労働する主体自身の欲求(売り手の好み)と労働の目的(顧客のニーズ)とがはっきり分離されなくてはならない.そのうえで,例えば,メニューをただ渡すだけではなく,選ぶプロセスにできれば介入しようとする.相手の欲求充足の手段は,食材→料理というかたちで,目にみえている.料理は,こちらからみれば,さしあたり労働の目的である.料理という欲求充足の入口はみえているが,その向こう側の欲求がどのように延びているかはわからない.食材から食生活へと,相手の欲求充足の過程を手繰りだす方向に労働は展開されてゆく.はじめに相手の欲求の源泉をみっけて,そこから何を買うかを導きだすことは難しい.「こんな本を買ったあなたは,こんな本も欲しいでしょう」という逆方向のアプローチが自然なのである.
このように,市場はそこに固有な労働を介して欲望に深く干渉するが,ただこのことを,本来の欲望のすがたが商品経済のもとで歪められていると簡単に決めつけないほうがよい.欲望は,どの時代においても社会的な性格を帯びている.商品経済はこの社会性を脱色した後,個人化された欲望に浸透し,それに適した色に染めるにすぎない.繰り返しになるが,人間の欲望は本来プライベートなものだという考え方自体が,商品経済が生みだすイデオロギーなのである.
欲求と目的の問題は,さらに介護や医療,教育や育児における労働の位置づけなど,原理論が今まで明示的に扱ってこなかった複雑な問題に発展するが,ここでは両者の分離可能性が労働概念のコアをなすという命題を確認して先に進む.
▶拡張された労働
▼拡張された労働
- 「拡張された労働」とは、「労働」ということばのもっと深層をなす「はたらく」ことです。
- 二層のレイアで、「はたらく」と「つくる」(「〜にする」)は立体的につながっている。
-
(意志→(手段→目的))前回は $P(M \to O)$と表記しました。括弧が二重になっていますね。こういうのを入れ子型といいます。NESTing とも。が「つくる」です。
- 「意志」が作用しなくても、
「手段→目的」にあたる過程人間の意志がはたらかなければ、もちろん「手段」「目的」という区別は無意味です。ただ、あくまでモノのレベルでみると、同じ中味だという意味です。自動で進む可能性があります。
- この場合は、他動詞「つくる」ではなく、自動詞「なる」の世界になります。
- だから、「手段」「目的」というラベルも消え、「モノA→モノB」という自然過程になります。
- 「つくる」あるいは「〜にする」が「はたらく」になるためは、さらに「効果」すなわち「はたらき」が必要になります。
- 「効果」というのは一定の「はたらき」をすることでした。人からみれば「役にたつこと」「欲求をみたす」ことです。
労働の三つの
フェーズ「相」。多面的なオブジェクトを異なる角度からながめたときに現れるそれぞれ独自の側面のことです。
▶フェーズ1:欲求の対象化
- 労働は、いきなり上の図の太い矢印の方向でははじまりません。はじめは、これと逆方向の回り道を通る必要があります。
- つまり最初にモヤモヤした「欲求」があって、それを満足させる「はたらき」をするモノを探しださなくてはなりません。
- そして、この「はたらき」を、特定のモノ、「目的」となるモノ、目的物に結びつけなくてはなりません。
- 「欲求」や「はたらき」は人によってさまざまな状態にあり、はかれるようなモノではありませんが、「目的」のほうははかれるモノ、だれがみても同じものです。
- 「ナンか食べたいな」という「欲求」を、それをみたす「はたらき」をもった、たとえば「目玉焼き」というモノの
すがただれにでも同じにみえる、知覚可能な shape です。にしなくてはならないわけです。
- 「はたらく」という意味での労働の出発点は、漠然とした欲求を、実現可能な目的物のすがたにしっかり固めることです。
- スクランブルエッグじゃなく、目玉焼きがいい、というところまで確定する必要があるのです。もちろん、卵料理じゃなくてはならないわけではありませんが。ともかく、どうやってみたしたらよいか、わからないモヤモヤをカチッとさせなければならないのです。
- 欲求をかたちあるモノの「すがた」にすることを、欲求の対象化とよぶことにします。
▶フェーズ2:手段の体系化
- 目的が明確なすがたをとれば、次にそのための手段を組み立てることが必要です。
- この段階では、モノの世界に対する知識がものをいいます。
- 卵のプロテインは熱によって固まることを知っていないと目玉焼きは「焼く」ことはできません。
- フライパンやコンロ、卵やオイルをそろえて、どういう「手順」でつくるのか、設計しなくてはなりません。
- 一種のプログラミングです。コンピュータを手段としてつかう場合と変わりません。
- 必要な手段を組み合わせ、目的を実現する手順を整えることを手段の体系化とよぶことにします。
- 手段の体系化は、最終目的から下位の目的にさかのぼる方向で分解し調整するかたちをとります。
▶フェーズ3:コントロール
- 手段の体系化は完璧できるわけではありません。
- ネライどおりにゆかない場合は、手段を調整し、目的に近づくように、逐次調整する必要があります。
- これは知覚を具えた身体を意のままに動かすことができる人間がやることです。
- 人間は目的を意識し、自然過程がそこからズレた場合には、知覚をもとに、身体をつかって、モノとモノの反応する世界に介入することができます。
- 労働の遂行、実行と通常よばれているのは、このコントロールの過程です。
- 上の図の太い矢印は、手段が目的に変わる自然過程を、意識がその外部からコントロールしていることを表しています。
▶注意事項
- 通常「労働」というとフェーズ3のみを指し、拡張したとしてもフェーズ2までです。
- しかし、「はたらく」ということばの含意からして、労働がフェーズ1を含むことは重要です。
- とくに、現在激しく変わりつつある労働のすがたを理解するためには、人々の漠然とした欲求をかたちあるものに変える活動を、労働の重要なフェーズとして捉えておく必要があります。
▶今回のまとめ
- 労働の本質は、先に目的を決めてそれを追究する目的意識的活動である。
- ただ目的をきめるにはまず、漠然とした欲求を特定のモノのかたちにする必要があり、労働はこの方向に拡張される。フェーズ1:欲求の対象化
- 目的の実現には、そのための手段を整え、手順を整える必要があり、労働はこの方向にも拡張される。フェーズ2:手段の体系化
- そのうえで、目的を実現するには、身体を駆使して目的から逸れないように、たえずコントロールする必要がある。フェーズ3:コントロール
- フェーズ2 が進めば、フェーズ3 は後退する。オートメーション化が進むのである。
- フェーズ1 は、さまざまなものごとが商品化されるにつれて、拡大してゆく傾向になる。
- 労働の本質は変わらなくても、そのすがたは今日、急速に変容している。
- この変容を捉えるため、いままでの労働の概念を根本から組み立てなおす必要があるのだ、というお話でした。