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概要
今回は
- 「熟練」について考えてみます。熟練というと、以前は人間の身体活動を中心に考えられてきましたが、今日では、コンピュータと熟練の関係がおもしろい問題です。
熟練
- 熟練=技能=skill とよばれるものの正体
- 労働過程のどこに熟練は潜んでいるのか?
- 「暗黙知」
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- 知っている(人に説明できる)から、実際にやれる ... これが普通だろうが
- 知らない(人に説明できない)けど、できちゃう ...これを 暗黙知というようです
- 理屈はわかっているけど、できない ... というもある
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- 講義ではここまではなしました。まとめると
- 目的意識的活動 = 目的設定 + 実行 といわれているが、
- 目的設定 には、実現のための手段・手続きの構成、段取りが必要であること
- しかし、予見できなかったノイズで、段取り通りにはゆかない
- たえざるプロセスの調整=コントロールが必要になる。
- 自然にコントロールできる能力が「熟練」とよばれるもの
- コンピュータでは広い意味でのプログラム=手続き・手順がこれにあたる
- 人間なら、頭のなかで自然にできることを、意識的に分析しないと、コンピュータにやらせることはできない。
- それがある程度できたとしても、コンピュータがプログラムで想定した結果をださないことがある。予期せぬエラー、例外、バグが発生する。
- まだ今の段階のコンピュータでは人間がたえず「監視」モニタリング しないとならない。
- コンピュータがプログラムのバグを「自分で」発見し修正するようにさせることができるか。絶対にできないわけではない。たとえばデバッガーという「道具」はある。この「道具」が発展すれば、プログラマーの熟練の一部はいらなくなるかも。
- 人間がいい加減に書いた、バグがあり、うまく動かない、できかけのプログラムX。これをコンピュータがバグをとり、作動するプログラム Y に変更して作動。このとき、Yは人間がXで実現しようとした「目的」に合致した結果をだしたことになるのか?X→ZをX→Yとして作動したとき、これをコンピュータが「暴走」したといってみて.... しょうがないですね。コンピュータに「目的意識」をもたせることは、現段階では難しいですから。クライアントがプログラマーに「目的」を伝えれば、プログラマーは「目的」に合致するプログラムを書く能力はあります(なかには「暴走」するプログラマーもいるかもしれませんが...)しかし、プログラマーが、これと同じように、コンピューターに「目的」を伝えるわけにはいかないのです。現段階では....
- 今日の講義では、目的設定のあとの手続き・手段の話をしましたが、目的設定にいたる、そのまえのプロセスも考えなくてはなりません。前々回はなした「欲求」と「目的」です。
- ということで
宿題:コンピューターの発達は熟練をなくすことになるか? メールで...
- みなさんからの
回答:
- コンピュータと熟練の関係を、簡単なプログラムの作成で説明してみます。
- Container With Most Water という問題です。
- ① O(n^2) で遅い。 for + for の2重ループになっているため。
for i in range(len(height)):
for j in range(i+1,len(height)):
contain = max(contain, (j-i)*min(height[i],height[j]))
- ② O(n) に改良
while ( i < j ):
contain = max(contain,(j-i)*min(height[i],height[j]))
if height[i] < height[j]:
i = i+1
else:
j = j-1
- 現段階のコンピュータでは、①を②にするのはプログラマーの仕事。熟練はここに潜む。
- ①で動かそうとしたとき、コンピュータが①を②に自動的に変更して作動すれば、プログラマー(の熟練)はいらなくなる。
- ①→②をどうやってコンピュータにおこなわせたらよいか?
- コンピュータに「目的」②をどのようにして「自覚」させるか?(「自覚」などと擬人法でしか表現できない限り、まず、コンピュータにさせることは無理ですね。)
- どうやったら、コンピュータに目的意識的活動=労働をさせることができるか?
- まだ、このレベルの「知性」をもったコンピュータをみたことはない。
- AI ? ぜんぜんアプローチが違いますね。大量のデータ → プログラム という帰納が基本で、人間の推論の「原理」:演繹型とは方向が逆です。人間のなかにもこのタイプの人は多いのですが... 「一を聞いて十を知る」のではなく「万を聞いて十を知る」タイプ。
- マルチスレッド?アルゴリズムではなく物理的なCPU利用の効率化による解決。コンピュータが高速になれば①でOKというアプローチ。これはありうるかも....
- そうなれば①が書けるだけの「単純労働プログラマー」で足りることになる。これが「コンピュータと労働」という論文で、
- 「手の労働の単純化」が終わった後の第二ラウンド:「頭の労働の単純労働化」がはじまった、
- コンピュータはまだ道具だ、
といった実際のすがたです。
まとめ
- 道具と熟練の関係
- 機械と熟練の関係
- コンピュータと熟練の関係
配布物
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